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……馬渕君の時も九条君の時も気が付かなかった。



今思い返してみれば、前2人も表情のパターンが三つくらいしかなかった気がする。



舞い上がっていたし、攻略に一生懸命だったから気が付かなかったけれど。



手越君の表情で、ハッキリと気づいてしまった。



……ああ、やっぱりゲームの世界はゲームでしかないのだと。



表情や仕草は全て、作られたものであって、リアルの人間の感情は全く込められていないという事を。



胸キュンしてきたのは、いつもクリアするたびにキュンッとなるものと一緒であって、この人自身にときめいたわけではないんだ。



……この前も思ったけど、『攻略する』って言っている時点で、恋をしているわけじゃない。



このままこの世界にいたいなって思ったのは何でだろう?



イベントが終わったのか、手越君の腕の中にいたまま風景が変わり、自分の部屋にワープした。



カーテンは閉じられ、いつものようにパジャマを着ている。




「……はあ」




若干テンション下がり気味。



手越君が攻略できなかったら、負けたみたいで悔しいとか思っていたけれど、どうでもよくなった。



画面を通して攻略するだけで良かったんだ。



こんな風に実際に体験したって、ゲームにはない裏設定ばかりが見えて、肝心の恋愛モードには全くならない。



自分に都合のいい事ばかり妄想はできるけれど、ゲームってこんなもんなんだ。



実際にキャラクターと接したっていい事なんかなかった。



ため息をついた後、何気なくカレンダーに目を向ける。




「……うっわ。学園祭、明日なの?」




1週間以上先にワープしてしまったようだった。

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