22

もぐもぐと食べていた手越君の表情が、くもる。



……どうしたんだろう?



お弁当を食べる手を止めて、思わず彼を見つめてしまう私。




「どう?美味しい?」




小首をかしげて、彼女が手越君に聞く。



……手越君の表情、見えないの?




「……無理。これは卵焼きを愚弄している!」



「えっ?」




突然、怒り始めた手越君に驚いたのか、彼女は固まってしまった。




「卵焼きはただ単に甘ければいいってものじゃない!これは砂糖の入れすぎだし、しかも焦げていて苦い!これは卵焼きに申し訳ないと思わないのか?!頭を丸めて出直せよ!」



「そ、そんな……ひどい」




うるうると涙をうるませて、ワタシカワイソウ的に悲劇のヒロインぶる彼女。



私はハラハラしながらもこの状況を黙って見つめていた。



手越君、卵焼きにこんなにこだわる人だったの……?



ヘラヘラしていた笑顔を思い出せないくらい、怖い顔をしているんだけど。




「卵焼きがすべての始まりなんだ。こんなものを卵焼きと呼んで欲しくねーよ!二度とオレに関わるな!」



「そんなっ!……っ」




広げたばかりのお弁当をまとめると、彼女は口をおさえて泣きながら屋上を後にする。



……卵焼きにそんなこだわるなんて。



やっぱりどこか変。




「……ホント、困るよねー。ハニーも思うだろ?」



「……え」




そこで同意を求められても困る。



うん、普通に思わないし。



卵焼きっていうのは、それぞれの家庭の味が出ているわけであって、自分の口にあわないものは全部卵焼きを愚弄しているっていうのは絶対におかしい。

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