7

「どうだ?滝沢」



「あ、はいっ!……わ、私は、あなたを愛しています!」



「正解!ボーっとしていたように見えたが、フリだったのか」




慌てて答えると、先生がハハハと笑いながらそう言った。



フリじゃなくて本当にボーっとしていたんだけども……。



変な汗をかいたけど、助かった。



ホッとしながらイスに座り、隣の九条君の方を向く。




「く、九条君、ありがとう……」




コソッと小さな声で彼に言っても、気づいていないのか九条君は顔を上げない。



参考書を真剣な眼差しで見つめている。



……その瞳で私を見てくれたらいいのにっ!




「あの、九条君。本当に……」



「はあ……。ため息しか出ない」




誰に言ったわけでもないんだろうけど、九条君のつぶやきがしっかりと聞こえてしまった。



ため息しか出ない。



まさかとは思うけど、私に対しての事じゃないよね?



こんな問題もわかんないのかとバカにしているわけじゃないよね……?



聞いてはいけない事だったかもしれないと、心臓の鼓動がはやくなる。




「九条君、あの……」



「何で、キミは鏡の向こう側にしかいないんだ?」



「……は?」




鏡……?ま、まさか……!



消しゴムをワザと九条君の方に落とした私。



先生が何かを説明しながら、こちらに背を向けて黒板に文字を書きはじめたのを見計らって、私はサッと九条君のそばでかがんだ。



消しゴムを手にしながら、九条君が真剣に見つめている参考書を覗きこんでみた。




「……っ!」




声が出そうになるのを手で口をおさえて必死にこらえる。

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