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「……ああ、コレ持ってきてくれたんだ?」
「あ、う、うん……。先生に頼まれて……」
鏡を覗きこんで、自分の顔にウットリしていたところを見られたというのに、何でこんなに落ち着き払っているんだろう?
無駄にアツい人よりはマシ……だけどさ。
「滝沢さん、わざわざありがとう」
「いえ、どういたしまして……」
九条君はクールな表情を崩さずに私にそう言った。
元々、九条君というキャラはあまり感情を顔に出さない。
学校一の人気者であるにもかかわらず、笑顔を振りまいたり自分から人を助けたりする事はしない。
本当にマイペースで、興味のない事にはとことん興味がないというか。
……でも、それがよくわかった気がする。
他の事に興味がないんじゃなくて、この人は自分にしか興味がないんじゃないか……?
「ねえ、滝沢さん」
「……はい?」
書類袋の中を確認した後、九条君は再び窓側の席に座った。
指先に自分の髪をからめて、小首をかしげながら私を見つめてくる。
そ、それ九条君がやったら反則でしょっ!
鏡を見なよ、可愛すぎるんだけどっ!
悶えそうになるのをこらえながら、私は九条君の言葉を待つ。
「……美しいって何だろうね」
「……はあ?」
「やっぱり、僕のために作られた言葉なんだろうね。滝沢さんもそう思うでしょ?」
そう言うと彼は再び、鏡を取り出してまじまじと自分の顔を覗きこむ。
ウットリとしたような顔。
……完全に自分に酔ってらっしゃる。
数行前に悶えた事に激しく後悔。
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