16

頭痛がしてきたけれど、これで終わるならと思い直して私は窓から手を振る。



これ、ハッピーエンドになればその後のエピソードなんかないから、もう馬渕君に振り回されずに済むよね。



あと少しの辛抱って事で付き合うか……。




「届けー!俺のアツい想いーっ!」



「……」




やめて、本当に恥ずかしいからやめて。



グラウンドに響き渡る、馬渕君の声。



他に聞いている人なんておそらくいないんだろうけれど、見ているこっちは物凄く恥ずかしくてたまらない。



馬渕君に『恥ずかしい』という感覚はないのだろうか。



……あったら、よくわかんない理屈並べて、アツくなってはいないよね。




「あああああ!何てことだ!15メートルにも届いていないじゃないか!」




保健室の私とグラウンドの馬渕君の温度差は、100度くらい違うと言っても間違いじゃないかも。



頭を抱えて、膝をつきながら一人で叫んでいる馬渕君。



それを完全に冷やかな目で見ているであろう私。



最初にも言ったけど、砲丸投げ専門でやっているわけじゃないんだから、18メートルなんて届くわけないじゃない……。



陸上競技を甘く見すぎだよ!




「ラストチャンスだ!今度こそ、滝沢のハートに届け!俺のマイスウィートハート!」



「ひっ……」




それは馬渕君が叫んだらダメ……。



さすがに今のは鳥肌モノだよ!



それに、そんな事を言っていいのは、手越君だけだから!



アツい叫びと共に宙に放たれた砲丸は、放物線を描く事もなく、ドスッという音と共に地面へと落下する。




「……うんっ!さっきの話はナシで!」




両手を腰に当てて、納得したようにうなずいた後、あっさり彼はそう言った。

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