第6話 下校と公園

 睨んだだけで効果があったかは分からないが、とにかく縋る手立てはそれしかない。僕達は公園に向かって走り始めた。後ろから木の枝やポリバケツを跳ね飛ばす音が聞こえる。


「《お下校さん》ってさ、普通の人には見えないの⁉︎」


「《観測者》の才能がない私にも見えるし《怪談》をまとった後は誰にでも見えるよ!」


「大騒ぎじゃん!」


「一時的にはね!」


 そうか。「八尺様を見た」なんて事、騒ぎ立ててもただの怪談。そして時間とともに「夢かな」「見間違いだったかも」に収まっていくんだ。しかし、後ろから追いかけられるというのはかなりの恐怖だ。音でしか距離を測れないし相手が何をしているのかも分からない。

 ヒュッと音がして頬を何かが掠めた。木の枝に見えたがきっとこれは八尺様の指だ。それがペキペキと曲がって僕の顔を掴もうとする。


「マジか」


 横には避けられない。のけぞって躱そうとして足がもつれた。


「危ない!」


 肩に衝撃。隣から体当たりを食らって僕は倒れ込んだ。八尺様の指は避けられたが倒れた方向に地下への階段があり、僕はそこを数段転がる。


ぱぽぼぽぽ……ぽ


 階段を塞ぐように覆い被さる八尺様。このまま地下に逃げればあるいは。そう思って下を見るが階段は階下のライブハウスにしか繋がっていないようだった。逃げられないどころか連れて行ったら大惨事だ。


「登って!」


 声とともに八尺様が吹っ飛んだ。見れば女の子が鉄パイプをフルスイングしている。この街、どこにでも鉄パイプがあるのか⁉︎物騒だ。


「ありがとう!」


 階段を四つ足で駆け上がり八尺様の横を擦り抜けて路地に躍り出る。

 走って走って曲がって走って壁を擦ってなお走る。車を避けて道を渡って止まらず走る。そして公園は間近に迫った。


「ラストスパート!」


 女の子が叫んで。

 そして漫画のように転んだ。


「てッ」


 マジか。運動神経良いのにここで転ぶか?そういや初めて会った時も転んでたっけ。それ素かよ!どうする?戻れば僕も危ない。僕じゃ八尺様を殴り倒すなんて出来ない。逃げるべきだ。僕だけでも。

 でも。

 でもさ。

 あの子は僕をなんども助けてくれたじゃあないか。

 気がつけば僕は彼女に向かって走り出していた。それはもちろん八尺様に向かってという事にもなるのだけれど。

 手を掴む。引き起こす。


「行こう。ラストスパートだ」


 頷く女の子と手を繋いだまま走る。走って走って走って公園の入り口を越えて振り返った。

 首を前に突き出しほとんど大蛇のような形で周囲のものを倒しながら迫る八尺様。その顔が公園の入り口を通過した時、通った場所から弾け飛んだ。

 八尺様はお地蔵さんの結界を出られない。なら勢い余って出てしまったら?《お下校さん》は八尺様としての《怪談》の着ぐるみを結界の中に置いてくる事になる。公園に入れるのは現世に干渉出来ない《影》の部分だけ。八尺様は《影》を吐き出しながら崩壊していく。


「もらった」

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