第9話

薄暗い廊下に人の気配。こっちにもびっくりして、「ひっ……!」と短い声を上げる。


「なんでそんなに震えてるんだ?」


と、再び話しかけてきたのは、よく見たら部の先輩だった。

三年生の橋本千尋はしもとちひろ先輩――

イケメンだけど、クールを通り越して冷酷な人かと思うほど無口な……。


「あ、あの、橋本先輩も聞きませんでした? そ、そこ、宴会場から悲鳴……」


まだ腰を抜かさないだけマシだったが、震えて歯はガチガチだった。


「……いや」


橋本先輩は表情を変えないまま、私の横を通り過ぎ、廊下の突き当りにあるトイレへと向かって行った。

 

『え? あの騒ぎが聞こえなかった? 嘘でしょ?』

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