第5話

私がこの学校に来たのは去年ー…

社会人2年目24歳の冬だった。


前任の美術の先生が産休に入るということで、中途半端なその時期に採用が決まった。




美大を卒業してからも、絵を描くことをやめたくなくて、お世話になった絵画教室で講師として働きながら、小さなアトリエで制作をする日々。


だけど、絵を描くのってなかなかお金がかかる。

加えて小さなビルの3階を自宅とは別にアトリエとして借りていて……あの頃の私はいくつかアルバイトを掛け持ちしながら、生活費を稼ぐので必死だった。


そうしているうちに段々と絵を描く時間も体力も無くなってしまって、思い通りにならない日々に悩んで、行き詰まっていた。





そんな時、高校時代お世話になった

たちばな 香織かおり先生から、美術の教師に空きが出ると連絡をもらって、採用試験を受けることに。



無事に合格して現在に至る。




ようやく安定した職業について、お金にも時間にも余裕ができた今、この場所を手放すわけにはいかないのだ。



男子生徒1人を特別扱い、なんて……

次から次へと最悪な未来が思い浮かんで、想像しただけで体が震える。





「だめだめ、絶対だめ!

厳しく!心を鬼にするんだ!」




そう自分自身に言い聞かせながらランチタイムを終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る