第二章 死せる再生者 ③
「フェリオ様、お体は大丈夫なのですか?」
「ええ、今日はその事も含めてお話に参りました」
そう言うとフェリオはターメスに退室を促す。
「ここ最近、私の体調がすぐれないことは皆さんもお気づきでしょう。その原因なのですが、実は、私は今ヒルメスの子を宿しているのです」
「なんですって!?ヒルメスの子を!」
「はい。しかし本題はここからです。私はこの子を皇帝にしたいのです」
「皇帝に?」ウェド・カークは訝しんだ。「しかしそれでは女系継承になってしまう。現状で男系男子が存在する以上それは認められ…」
そこまで言いかけたところでハッと息を呑む。
「フェリオ様、まさか…」
フェリオは続ける。
「魔王は倒せたといえ、この帝国は明らかに衰退期に入っています。そもそも魔王ゾグラフも、魔族転生するまでは農民反乱の首謀者、つまり一介の人間だったのはご存知でしょう。私はこの国に道義と勇気を取り戻したいのです。そう、ヒルメスの魂を…」
「しかし、だからといって…」
「あなた方も勇者ヒルメスの人格はよく知っているはずです。なにせ私も含め、今この部屋にいる全員はヒルメスによって命を救われたのですから」
一同の脳裏に”その日”の出来事が蘇った。それは魔王を倒しアレニアに帰還する道中のことであった。
砂漠地帯にて野営をしている際、一同は巨大アリジゴク魔獣アントリアーの罠にかかってしまったのだ。
このままでは全員が食われてしまう、そんなとき、パーティー一行とフェリオを救ったのはヒルメスの宝具レイガルの剣であった。彼らは衣服を剣にくくりつけ、剣は勇者の命令によって中空を推進した。これにより蟻地獄から脱出することができたのだ。
一方ヒルメス自身は、先だって滞在していた砂漠の街ガラージにて歓迎のしるしに授けられたアントリアー撃退アイテム「ガラージ神殿の緑石」を懐に、自ら蟻地獄の中心部へと沈んでいった。
巣から脱出してしばらくの間、剣はなおも進み続けた。やがて彼方にて巨大な爆音が聞こえ、こちらにも砂煙が漂ってきたとき、剣は突如として一行を振り落し、どこかへ飛び去った。この瞬間、皆はその宝具を操る持ち主が死んだことを悟った。飛び去った剣は、今も世界のどこかで新たな持ち主を待っているのだろう。
このことを思い出すと、室内は重苦しい空気に包まれた。皆ヒルメスに負い目を感じているのだ。
沈黙を破るようにウェド・カークは口を開く。
「フェリオ様、私は財務卿の職を辞退しようと思っています。またコンジェルトンは元老院議員の職を…」
「それは困ります。あなたは私の願いを聞いていただけないのですか?」
「いえそうではありません。このウェド・カークには一計があります。その初手として、明日にでもコンジェルトンとともに皇帝陛下に謁見し辞職の意をお伝えしたいということなのです」
「ウェド・カークのやつ、一体何を考えている?」
この室内にいるすべての者と同じように、コンジェルトンはウェド・カークの考えを掴みかねていた。
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