第二章 死せる再生者 ②

「やはり、元老院職は辞退しようと思うんだ」


叙勲式の日の晩、コンジェルトンは唐突に切り出した。勇者パーティーの一同は顔を見合わせる。


「お前は何を言っている?一度元老院議員になってしまえば、あとは年2回、4ヶ月間都の議会に出席するだけで領地と、奴隷と、給金が一生涯保障されるんだぞ?それをわざわざ蹴ってなにがしたいんだ?」

あまりに自分の考えと乖離していたのだろう、パルムスは咄嗟に忠告した。


「うむ、確かに馬鹿げている。ただ私にはどうも一生をそんなルーティンに捧げたいとは思わないのだ。もう2,3日ここに滞在したらまた放浪の旅に出ようと思う。なにせ修道院の師匠の元を出てお前らと出会うまで、私はずっと無宿人として生きてきたんだ」


「ふむ」

ウェド・カークが口を挟んだ。

「実は俺も元老院職はともかく、財務卿は辞退しようと思っている。俺はグラスランナー族でしかも元盗賊だ。たとえ勇者パーティーの経理、兵站担当として多少ばかり功績があったとしても公職、特に財務卿なんぞに就くのはリスクが高すぎる」


「リスクって、なんの?」エイデンが尋ねた。


「暗殺だよ」


今度はコンジェルトンも含め、またも一同は顔を見合わせた。


「元老院議員の暗殺例は歴史的に見ても少なくはない。それに魔王軍は滅びたといっても配下の魔族たちが全滅したわけではない。むしろそれは統制を失って拡散されたとすら言える。魔王軍の残党が地方領主でもある元老院議員や皇族たちと裏で結んだら…それに最近では条約違反(※)の攻撃魔法を用いる黒魔術衆も暗躍していると聞く」


と、その時何者かが部屋の扉をノックした。入ってきたのは執事のターメスであった。


「失礼いたします。皇女フェリオ様が、内密にお話をしたいと出向かれております」


「フェリオ様がわざわざ…一体何の用だろう?」


※ペペロシオン条約のこと。今から300年ほど前に森林地帯でもあったペペロシオン地方の自治権をめぐり現地のエルフ族およびそれを支援する各地の有力エルフとアレニア帝国の間で戦争が生じた(ペペロシオン戦争)。エルフ族は得意の魔法(攻撃魔法を含む)を駆使し序盤は優位に立つものの、帝国軍はエルフ族の本拠地の森の周囲に石塁や砦を建造しこれを包囲。外部からの補給を絶った。包囲陣は度々攻撃魔法によって突破されたが魔法は魔力(魔晶石+内在魔力)に加えカロリー消費量も多く、程なくしてエルフ族の間で飢餓が発生、人々は森の木々の皮で飢えを凌ごうとしたが神聖な森の荒廃を見て取ったエルフ長老は降伏を決断した。その際神木とその周囲の禁足地の保護と引き換えに結ばれたのがペペロシオン条約である。この条約によって一切の攻撃魔法は習得や研究を禁じられ、今に至る。攻撃魔法を禁じられたことにより、この世界でのエルフ族の影響力は大きく弱体化した。

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