第二章 死せる再生者 ①
叙勲式にて。
コンジェルトンたち一行は元老院議員(※)や皇族たちとともに、謁見の間にて皇帝ファルムスを待っていた。
扉の前で太鼓が二度打ち鳴らされる。皇帝が到着したのだ。全員が膝を屈し顔を俯ける。
「皆の者、面を上げい」
コンジェルトンはそれとなくファルムスの顔を観察した。なるほど、ウェド・カークの言っていた通り顔色はよくない。
式典が始まる。まず元老院は今回の魔王討伐を祝い、皇帝に諡を送る。通常諡は皇帝の死後に送られるのであるが、多大な功績が認められる場合には生前に与えられる場合もあった。
「リヴィアタイザー」。再生者。それが元老院がファルムスに与えた諡であった。一度は魔王ゾグラフの手に落ちかけた世界を救い、再生させたという意味である。ファルムス・リヴィアタイザー・アレニムス・チルクンダトゥスが皇帝の正式名となった。
続いて皇帝による叙勲が執り行われた。パルムス、ウェド・カーク、コンジェルトン、エイデンはそれぞれ子爵号を与えられ、皇帝の下に跪き、肩に剣を置かれた状態で誓いを立てる。
さらに式典は閣僚の任命式へと続いた。
「財務卿、ウェド・カーク」「皇室付き、パルムス」
この2名の任命は元老院議員たちをざわつかせた。財務卿は帝国内閣の中でも最高職の一つ、それに通常は城内への立入すら禁じられているグラスランナー族が就任。また、パルムスが任命された皇室付きは実質的に年少皇族の教育職であった。そこに平民出身、しかも元愚連隊というお世辞にも柄が良いとは言えない人物をつけるとは。
(見よ、歴史上でも最高の諡を与えたにもかかわらずこの仕打ちだ…)(この帝国もそろそろか…)元老院議員たちはひそひそと呟きあった。
そんな状況を見て内心笑みを浮かべているのは第一皇子グレイムスであった。彼は魔王大戦にてこれといった手柄がなく、故に次期皇帝の座を危うくしているのであった。ここで元老院の不満を糾合し彼らからの支持を取り付ければ一挙に形勢逆転の芽が出てくる。
※元老院は皇帝の輔弼機関である。初代皇帝アレニムス3世に連なる皇族たち、帝国発足前よりアレニムス3世に従っていた重臣たち、皇帝権力に恭順の意を示した地方豪族、帝政樹立後の戦争で著しい武勲を挙げたものらの子孫によって構成される。アレニア帝国においては元老院議員が実質的な貴族階級として機能している。継承権を持つのは男系男子のみであり、お世継ぎが生まれなかった場合には廃籍となる。そのためそれぞれの家系では積極的な婚姻政策が採られ、一人の息子が複数の家系の継承権を持つことは珍しくない。そしてこれは同時に、初代皇帝であるアレニムス3世が元老院の力が数的に肥大化するのを事前に抑止するために仕向けた策でもあった。
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