第一章 英雄たちの帰還 ②
大内裏に入ったコンジェルトンたちは、起立して皇帝らを待っていた。部屋の奥の壁には縦5m横2mはあろうかという巨大な額縁に、絹で仕立て上げられたであろう如何にも高級そうな幕がかけられている。
しばらくすると扉の手前からドン、ドンと二回太鼓が打ち鳴らされる。皇帝たちがやって来たのだ。コンジェルトンたちは片膝立ちの体勢になり顔を下に向ける。
扉が開く音がし、足音が近づいていくる。それはコンジェルトンたちの手前で止まった。
「諸君ら、顔を上げい」
コンジェルトンたちは顔を上げ皇帝ファルムスを仰ぎ見た。
(やはり顔色は良くない…)ウェド・カークは心のなかで呟いた。
「それでは除幕の儀を執り行わせていただきます」
額縁からスルスルと幕が取り除かれていく。そこには旅の途中、北方の渓谷の洞窟で手に入れた伝説の宝具(※)「レイガルの剣」を携えた在りし日のヒルメスの姿があった。
「諸君ら、どうじゃね。帝国中の画家たちを呼び集め、今日のために急ピッチで制作させたものじゃ。同じ釜の飯を食い、幾多の修羅場を掻い潜ってきた仲間として忌憚のない意見を」
「はっ、大変素晴らしい出来に感激しております。陛下」とパルムス。
「ちと色男に描きすぎかのう」とエイデン。「コラッ」とコンジェルトンは肘で小突いた。
「ハハハ…」周囲が仄かな笑いで包まれる中、突如皇女ファリオは崩れ落ちる。
「ああ、勇者様、私が愛したただ一人の男…あなたは私の命を2度も救い、そして私を置いて冥界に行ってしまわれた…なんと酷いことをなさるのでしょう…このような目に遭うのであれば私も一緒に連れて行って欲しかった…いえ、私一人で”あちら”へ向かいあなたを待っていた方がずっとマシだっった…」
「何をいうのじゃフェリオ!そんなことはヒルメスは望んでおらんだろう、そしてこの場にはヒルメスとともに世界を救った英雄たちがいるのじゃぞ、お前がそんな有様では彼らにも申し訳が立たぬではないかッ」と、皇帝ファルムスは一喝する。
「申し訳ございませんお父様…」フェリオは涙を拭いて立ち上がろうとするが、あっと再び倒れてしまう。
「フェリオッ、どうしたッ」
「申し訳ございませんお父様、少々目眩が…実を申せばこのフェリオ、ここ数日どうも体調が優れないのです。パレードの開始までには戻ってまいります。少し体を休ませてください」
そうしてフェリオは宦官に背負われると大内裏を後にした。
「フム、すまぬのう諸君ら。ただ確かにここ数日フェリオは顔色が悪かった」
(いや、あんたの方が余程悪そうだぜ…)
ウェド・カークはまたも心の中で呟く。
「では、パルムス殿らは早速隊列に加わっていただきます。フェリオ様もきっと時間までにはお戻りになられるでしょう」ターメスにそう促されるとコンジェルトンたちも大内裏を後にした。
(※)宝具とは武器の一種。通常武器とは異なりそれそのものが自らの意志を持ち
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