第一章 英雄たちの帰還 ①

帝都アレニアは沸き立っていた。


世界を恐怖に陥れた大魔王ゾグラフを倒し、皇女フェリオを救出した勇者ヒルメスの一行が帰還したのである。皇帝ファルムスはいたく喜び、早速英雄たちを正式に迎え入れるための凱旋パレードを挙行することにしたのであった。  


騎士パルムス、ドワーフ族の戦士エイデン、グラスランナー族の策士兼一行の経理担当のウェド・カーク、そしてエルフ族の魔法使いコンジェルトン。勇者パーティーのメンバーは正装に着替えさせられ、皇帝直属執事ターメスの説明を控え室で聞いていた。


「パレードの先頭に立たれますのは皇帝陛下および皇女フェリオ様でございます。今回のパレードは臣民たちにフェリオ様のご無事を知らしめるという目的もありますので。皇帝陛下は本来は騎乗にて先導するのがしきたりであらせられますが、誠に残念ながらご体調がおもわしくないということでフェリオ様とともに馬車にお乗りになられます」


話を聞いていたウェド・カークの眉がピクリと動いた。

(…なるほど。皇帝陛下は去年から体調を崩されているとは聞いていたが、既に乗馬すらままならぬほどに悪化しているのか…)  


ターメスの説明は続く。

「そして魔王軍による帝都侵入を3度も防ぎ、防衛戦にて多大なるご活躍をなされました第二皇子エリチャルドス様が続かれます」

「そしてすぐ後にエリチャルドス様の配下で多大なる戦果を挙げ勇者ヒルメス様の弟君でもあらせられるレムロス様が続かれます。エリチャルドス様の先鋭の配下の武将たちもです」


「ふむ」とパルムスが呟いた。


ターメスの説明はまだまだ続く。

「そしてその後で第一皇子グレイムス様、第三皇子ガルフリード様が続かれます」

「その後です。パルムス様とウェド・カーク様が騎乗にてお目見得となります。乗っていただく馬はそれぞれのご愛馬でありますところの轟天号、黒鮫号でお願い致します」

「そして続きましてコンジェルトン様、エイデン様が馬車にてお目見得となります」(※)


「承知した」

コンジェルトンは、ターメスが「そして」と喋った回数をぼんやり数えていた。


「そして皇帝陛下直属の親衛隊が勇者ヒルメス様の巨大な肖像画を運んでいくという流れです」

ターメスの説明がやっと終わった後、エイデンはつぶやいた。


「ヒルメス…本来であれば今日の主役となるべき男じゃた…」



「さて出発前に内々にてヒルメス様の肖像画のお目見得の儀となります。既に大内裏にてその準備が執り行われております。早速参りましょう」

 

コンジェルトンたちの控え室から大内裏までは同じ宮廷内でも徒歩10分ほどもある。コンジェルトンは内心長いと思いつつも、ヒルメスの肖像画が死去の報から数日内と早くも完成したことに驚くと同時に、それを喜ばしくも思った。肖像画は帝国内のお抱え画家たちを総動員し、急ピッチで制作されたのだという。



※エルフ族、ドワーフ族は他種の動物を手懐けることができず、故に乗馬もできない。逆にグラスランナー族はヒト族以上にそれに長けており、その対象は家畜にのみならず野生動物や一部の魔獣(モンスター)まで及ぶ。

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