序章 ②
エスシスは2つ目の魔晶石を取り出した。
「クソッ、駄目だ。キマイラアントのやつ、暴れ回っているせいで攻撃魔法の狙いが定まらん。トリュファウトに誤爆でもすれば、ヤツはドワーフゆえ蘇生できん…(※1)」
キマイラアントは口をかっと開いた。口の周りに火花が飛び散っている。エスシスははっとして身を翻す。閃光弾だ。閃光は周囲の雪を溶かし雪崩を引き起こした。
「うぉぉッ」エスシスはとっさに鎖鎌を周囲の岩肌に突きたてて滑落を防ぐ。
「ハァッ」鎖鎌の先の分銅に捕まったエスシスはターザンのように跳躍する。岩から鎌が外れ先端の分銅はキマイラアントへと直進する。そしてそのままその吻を鎖で雁字搦めにした。
「トラジェクト(※2)だッ。これでもう閃光弾はつかえまいッ」
再び跳躍したエスシスは改めて2つ目の魔晶石を懐より取り出した。
「エンチャンテッドウエポンだッ。トリュファウトッ、今ならその斧の威力は倍加しているッ、もう一撃食らわせろォ」
「うぉぉぉぉッ」
トリュファウトは手斧を引き抜くと、もう一度キマイラアントの脳天目掛けて叩き落した。斧はキマイラアントの下顎までを真っ二つに切り裂いた。
あまりの勢いにトリュファウトは頭から転げ落ち、その顔面は散らばったキマイラアントの脳味噌に突っ込んだ。
「うがぁぁぁぁぁ」
しかしトリュファウトは興奮のあまりその脳味噌を生のまま貪り食う。
「トリュファウトッ、そんなことよりコンジェルトン様を助けに行くぞ!」
「オゥッすまねェッ」
さてその頃地下牢獄の独房ではコンジェルトンは鎖に繋がれ、息も絶え絶えの状態であった。そしてその虚ろな目には、彼自身の若かりし頃の記憶が走馬灯のように映し出されている。さて、コンジェルトンはなぜこのような悲惨な目に遭わねばならなかったのだろうか。コンジェルトンの過去に一体何があったというのだろうか?
※1この世界において神々からの洗礼を受けることができるのはヒト族およびエルフ族のみであり、ドワーフ族やグラスランナー族は蘇生魔法(一度冥界へと旅立った魂を再び物質界に引き戻す)の対象となることができない。尚セイレーン族に関しては未だ不明な部分が多く、はっきりとしたことはわかっていない。
※2運動する物体の軌道(この世界ではあらゆる基本的に物体の運動は”終末神”の到来する世界(未来)に向かって既に決定づけられていると考えられている)に干渉しこれを変化させる魔法。イフートと並び魔法術の基礎中の基礎であり、魔法使いが肉弾戦において使用する魔法体術の基本技術でもある。そのため魔法使いは(スタミナを消耗し魔法を使用する際の集中力が削がれる、魔力干渉を起こし正常な発動の妨げになる高質量武器を避けるという理由もあるが)鎖鎌や鞭といった軌道を操作しやすい武器を好んで使用する傾向がある。
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