【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン 第一部 帝国の分裂

流刑囚

序章 ①

政治とは流血を伴わぬ戦争であり、戦争とは流血を伴う政治である。―毛沢東



雪はもう三日前から降り続け、砦の地下牢へと続く扉すら埋め尽くしてしまった。


エルフの魔法使いエスシスは、防寒と迷彩を兼ねた白い毛皮を身にまとい、長い耳をそばだてて地下の囚人たちの立てる音を聞き取ろうとしていた。


「コンジェルトン導師の”氣”はもはや感じ取れぬか…。せめて命だけでも…」


「うむッ、あのあたりか」


扉の位置に当たりをつけたエスシスは、懐から魔晶石を取り出した。


―ファイアボルト


炎は直進しモーセが海を割るように直線状に雪を溶かし、道を作る。あった、扉だ。


「やはり…」


扉に駆け寄るエスシスは再び魔晶石を取り出す。アンロックで鍵を開けるつもりだ。しかしその時。


「曲者ッ」「ゲリラじゃッ、であえ、であえッ」


砦の周辺に配置されていた衛兵に気付かれたのだ。彼らはエスシスの通った道を駆けて迫ってくる。


「馬鹿どもめ…貴様らのために雪を溶かし、直線を開けておいてやったのだ」

「人数は6人か、思ったよりは多いな…。ならばフルパワーでッ」


―ヴァルキリージャベリン


直線上を走る光の矢は、焼き鳥串のように衛兵たちの体を貫いた。


「うぐぅ」

声にならない呻きを上げ、兵士たちは倒れていった。力を使い果たした魔晶石は砕け散り、大気へと還っていく。


と、その時、エスシスのイフート(※1)が何かを察知し、彼はその身を雪原へと翻す。彼の頭上を、黒い影が覆った。


「キマイラアントかっ」


初弾を外したキマイラアントだったがそのスピードは凄まじく、再度エスシスに飛びかかろうとする。しかしその刹那、砦の上から人影が降ってきて、キマイラアントの脳天に手斧の一撃を喰らわせる。


「トリュファウトっ!」


砦の上で戦っていたドワーフのトリュファウトが間一髪、救援に駆けつけたのだ。


しかしキマイラアントはその攻撃すらものともせず、斧が刺さったままロデオ状態でトリュファウトを振り回す。


「駄目じゃ、脳には届いておらん!」



※1過去から現代、未来へと流れる時の流れを察知する魔法。あらゆる魔法の中でも基礎中の基礎に位置づけられている。伝説ではこれを極めし者は「始源神」がこの世界を作り上げた遠い過去から「終末神」が降臨し世界が終焉する未来までのあらゆる事象をその場にいるかのように認識することができるとされる。ただし、多くの場合修行を積んだ者であっても数分前後を察知するのが精々であり、またその認知も時間が遠ければ遠いほど朧気なものとなる。記録において確かなのは約1年先の未来を読み取ったという例である。

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