第12話決戦は土曜日

金曜日の夜に携帯電話が鳴る。

麻里からだった。


「もしもし、健太?」

「オレ以外に誰が出るんだよ」

「今、仕事終わって、明日は夕方には仕事終るんだけど、健太は大学でしょ?」

「まぁね、法学部だけ土曜日に必修科目があるんだ。夕方には終わるよ」

「じゃ、夕方17時にいつもの駅前で待ってる」

「……うん」

「あらっ、元気無いね。ま、その事は明日聴いてあげるから。店は友達の働く居酒屋。良いよね?」

「うん」


通話は終わった。


坪井は部屋で、恵との写真を集めてゴミ箱に捨てた。でも、1枚だけ残しておいた。

それを写真立てに入れて、壁に固定した。

笑顔で、缶ビール片手の恵の写真を。

これを麻里が見たら女々しいと思われるかも知れないが、最期の最期まで自分の事を話す姿が焼き付いていた。

それは、次の恋愛のステップにもなるし、恵を忘れないつもりだ。

これをとやかく言う麻里では無い。彼女は、坪井より4歳年上で、かわいくて、働きものだ。

最近から麻里は坪井の事を「健太」と呼ぶようになった。

最初は恥ずかしがったが、今普通に健太と呼ぶ。


土曜日、17時。東松山の駅前で坪井はタバコを吸いながら、麻里を待った。

「ごめ〜ん、健太。職場で色々あって。も、それビール飲まなきゃ言えない」 

「どこの店?」

「高坂駅の出口に近い、「大吉」って店」

「高坂なんか、大学の最寄り駅じゃないかぁ〜、きっと知り合いがバイトしてるよ」

「その大吉の店長が、私の高校の同級生なの。全部半額で飲み食い出来るんだよ」

「じゃ、そこにしよう」


2人は「大吉」に入った。

「らっしゃい!……横井、彼氏さんか?」

「うん、そうだよ」

「金髪で格好いいね?ホスト?」

「違うよ!単なる田舎出身のイケメンだよ!」

「い、田舎はねぇよなぁ〜、麻里」

「いいじゃん。地方の訛りで喋る人は今大人気なんだよ。なんちゃって関西人もいるくらい」

「さ、横井、彼氏さん、どうぞカウンターへ」


2人は生ビールで乾杯した。麻里は一気にジョッキの半分を呑んだ。

「これ、サービスね。お二人さん」

「赤木君ありがとう」

「ありがとうございます」

と、2人はお礼を言った。9月の旬と言えば、戻りガツオ。脂の乗った身に薬味がが乗せてある。

大葉、秋みょうが、にんにくスライス。

刺し身で食べた。

「これ、いくらでも食べれるね」

と、言って2杯目のビールを2つ注文したら。

「大吉」は焼き鳥メイン。だから、焼き鳥の盛り合わせを注文した。


「さ、迷える青年よ!このお節介ババアに話してごらん」

と言ってビールをがぶ飲みする。麻里も一波乱あったのだが、先ずは坪井から。


「先週の水曜日に、恵が死んじゃった。最期は笑顔で寝ているみたいだった。手紙もらったけど、読んだら破いて捨てたたんだ。だけど、恵との写真を捨てたんだけど、1枚だけ残して飾ってある。これ、麻里には迷惑だよね」

と、坪井はビールを飲み干してからコーン茶割りを注文した。

「私も、鬼じゃないし、元カノさんの死を一緒に乗り越えようよ。でも、写真は大切にしてあげてね」

「うん。ありがとう。で、麻里は何があったの?」

麻里はちょうど出てきた串盛りを受け取った。通ぶって焼き鳥は塩に限ると言う学生がいるが、タレが美味しいのだ。継ぎ足し継ぎ足しで秘伝のタレになる。

男らしく麻里は焼き鳥を食べた。焼き鳥は箸で串から外してはいけない。


「実はさ、職場の30歳のババアが主任とは二度と話さないで!って言ったのよ」

「何で?」

「昼ごはん、一緒に食べに行って、今の彼女、例のババアと別れるから、付き合ってくれって。私は拒否したよ。健太がいたから。で、仲良く話しながら歩いていたら、ババアが主任をビンタしてね。それで、二度と話さないで!って言われたの。午後からは営業スマイルも出来なかった。5年間働いたし、辞めよっかなっ思ってたの。いずれ、健太は鹿児島に戻るんだよね?」

「んん〜、わかんない。でも、後3年は我慢してくれない?」

「どうして?」

麻里は訝しく坪井を眺めた。

「そりゃ、大学卒業後は就職するから、お金の心配は無くなるよ」

「健太の就職と何が関係あるの?」

「決まってるだろ、結婚するんだから」

「え……今のプロポーズ?」

「そ、そうかな」


焼き場の大将の赤木は、汗なのか涙なのか、首に巻いたタオルで目頭を拭いた。

恵の死を努めて忘れようと、2人は日曜日が休みなので、17時半から20時まで呑んだ。

最寄りの東松山から降りた2人は千鳥足でタクシーに乗り、坪井のアパートに向かった。

もう、同棲すれば良いのにの話しをしたら。

2人一緒にシャワーを浴びた。

「ここもキレイにしてあげる」

と、言って麻里は坪井のイチモツを舐め始めた。

20cmはあるシロモノ。そして太い。

直ぐに麻里の顔に射精した。


その晩は、2人で激しいセックスをした。

寝たのは午前2時だった。


翌朝11時に2人は着替えて外出した。

麻里も坪井宅に着替えを持ってきている。

役前の「マルマン」と言うパチンコ屋に向かった。

CR加トちゃん倶楽部を打った。投資4000円で麻里は確変を運良く引いた。

坪井は、投資12000円で確変。ワンセットで終わったが追いかけた。


麻里はドル箱を量産したが坪井は、出したら飲まれ、粘っても4000円の勝ち。麻里は12箱で6万円の勝ちだった。

これが坪井の主な生活であった。

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