第9話乳がんの彼女
何時間待っただろうか?
午前中、恵はストレッチャーで手術室へ向かい、出てきた時は正午を過ぎていた。
点滴と電極に繋がれた痛々しい姿で出てきた。
家族に医師の説明があった。
カンファレンス室に、恵の両親、弟、そして坪井が呼ばれ、医師が喋りだす。
「乳がんの摘出は出来ました。ステージ1です。早期発見だったので、予後は良好だと思われます。毎月1回の検査は必要です。再発は100%無いとは言えません。また、いつか変化があれば、検査日以外も相談して下さい」
家族は医師にお礼を言った。
恵は寝ていた。
家族は、帰っていく。坪井も呼ばれた。
恵のバイトする焼き肉屋に行った。店長に手術の話しをした。
店長は、心配して、働いても良いが無理はさせませんと話していた。
その日は、店長のはからいで無料で焼き肉を食べた。
お父さんと坪井はビールを飲んだ。
「坪井君には迷惑かけたね。ありがとう。しかし、恵と会うのは今日が最後にして欲しい。娘は君とのデートの為に無理して働いていたんだ。知ってた?」
と、お父さんはビールを飲みながら尋ねた。
「いいえ、知りませんでした。僕が無理させていたんですね。分かりました。二度と近寄りません」
そこに、お母さんが口を挟む。
「お父さん、坪井君は悪くないわよ。いつもデート代は坪井君が支払っていたと聞いているのに。あなたって、最低」
「いいえ、お父さん、お母さん、僕が悪いんです。別れます。そう伝えて下さい」
「……いいの?坪井君」
「もし、ガンが再発した時は僕は責任を持てませんので。ごちそうさまでした」
坪井は一足先に帰った。
親に嫌われてまで、付き合う必要はない。
恵には悪いが、別れよう。
坪井はその日の晩は寝て、翌朝、横井に電話した。
「今日の仕事何時まで?」
「明日は17時まで」
「講義が終わったら、話しがある」
「どんな?」
「ちょっと真面目な話し」
「分かった。17時15分に駅前で」
「宜しく」
坪井は必修科目を受けてから、駅前に向かった。
パイの連中にカラオケに誘われたが断った。
駅前。
横井が、
「坪井君、お待たせ」
と、現れた。2人は駅前の白木屋で酒を飲み始めた。
「坪井君、今日はどうしたの?」
「恵が乳がんでね。手術したんだけど、親に二度と会わない様に頼まれたんだ」
「で、恵ちゃんが心配なんだね?」
「まぁね。でも、二股掛けてるオレは最低の男だから、別れようと思っているんだ」
「なんだ、そっか。別れちゃいなさいよ!もし、再発したり何かあったら責任取らされるよ!」
「だよね?」
「うん」
2人は生ビールで、ホッケと唐揚げを食べていた。
「坪井君の将来の夢は?」
「警察官か、高校教師。現に、塾講師してるし。生徒に人気があって、保護者からも良くしてもらってるんだ」
「頭良いんだ。坪井君は」
「そう言う問題じゃないよ。ただ、田舎訛りだから、笑われているだけ」
「でも、私はそう言う坪井君のイントネーション大好きだよ」
「ありがとう」
心の隙間を埋めるのは、今は横井麻里しかいないのだ。
その日も、麻里と話しが終わったら帰宅した。
携帯電話が鳴る。
出ると、恵だった。泣いていた。
「お父さんが、健君に酷い事言ったみたいだね。ゴメン」
「心配すんな。早く病気を治せ」
「私達、これでお別れかなぁ?」
「近所だし、たまには焼き肉屋行くよ。そんな事より、自分の身体の心配しろ。親にも迷惑だろうから、もう、別れよう」
「……いや、絶対いや」
「でも、僕には責任持てないし、恵はキレイな女性だから直ぐに彼氏作れるって!心配すんな。これで、連絡も終わりにしよう。病気治せよ!じゃあね」
「……ちょっと、まっ」
ツゥーツゥーツゥー
坪井は心苦しかったが、これが最善策だろう。
恵との恋愛は終わった。
夜中、携帯が鳴る。
九州の元彼女、いずみだった。
「もしもし」
「もしもし、坪井君?私」
「何だ、今頃。今は夜中の2時だぞ」
「今度、こっちに帰る時は遊ぼうよ」
「男狂いのお前と二度と遊ぶもんか!」
「……ゴメンなさい。反省してる。私、遊ばれていたみたい。彼女いるんでしょ?」
「まぁね。今度の正月に帰る。その時」
「じゃ、待ってる。いつも、坪井君との写真見てるの。今、髪の毛は伸ばしてるの?」
「いいや。短いよ」
「黒髪?」
「全然。金髪だよ」
「うっそ〜、高校時代、ちょっと茶髪だったのに、金髪。見てみたいなぁ」
「もう、騙されんからな?会うだけだぞ!」
「うん。じゃ、連絡待ってる」
坪井の女性関係は複雑だ。
日曜日、パチンコを打った。
モンスターハウスが2万円の投資で5箱出した。この日は、ちょい勝ち。5000円のプラス。
麻里は笑顔でドル箱を運ぶ。
麻里の仕事時間まで打って、一緒に帰宅した。
大学生の朝は遅い。だから、麻里と映画を見た。
「タイタニック」
面白い映画だった。その後、餃子の王将で食って飲んで、寝た。
激しいセックスをした。
顔射したら、麻里は舌を出して、
「口の中に入れて……」
と、言った。
一度射精したのに、麻里の口の中で勃起して、2連チャン。
2回目は、唇に射精した。
2人はシャワーを浴びて寝た。
それから、暫く経って年末年始が近づき、麻里は忙しくなり、恵とは別れたが地元に戻った坪井は元カノのいずみのバイト先のマックへ出向いた。
「いらっしゃい、、、ませ。坪井君?」
「あぁ、そうだよ」
「かっこいいね。私の好みのイケメンだと思ったら坪井君でびっくりした。お金渡すフリをして」
と言うので、ポテトとチキンナゲットとコーラルを注文して、千円札を渡すと、お釣りと言って千円札を返した。
1時間、マックで小説を読みながらいずみの定時まで待った。
不思議と坪井は女の子には、縁があったのだ。
恵は焼き肉屋のバイトをまた始めたと、人づてに聞いたが、焼き肉屋には行かなくなった。
年末年始のパチンコ屋はかきいれ時だ。麻里は忙しかった。
大学生の坪井はバイトを休み、九州で元カノと飲みに行った。
しかし、坪井の知らないところで事件は起きていたのだが、当時は知る事が出来なかった。
「坪井君、お待たせ」
「うん」
2人は、九州の寿司屋に向かった。回転寿司屋だった。
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