第72話

「じゃあ、早速、行ってみようか。」


「え?近くなのか?化け猫は。」


「近くも何も、出雲大社を出た時から、ずっと、僕たちのことを

狙っているようだ。」


「全然、気づかなかった。」


「俺も。でも、この感覚、あの時の化け猫と全く一緒。晴明、あの化け猫は

帝の白い猫に憑依したんだ。帝の傍で、帝の力を得ていた、白い猫に憑依して

しまえば、思う存分、好き放題って奴なんだよ。」


化け猫を放った、道満がそう言うんだから、そうなんだろう。


「いい加減、姿を見せたらどう?」


落ち着いた声で晴明が、化け猫に呼びかける。


そんなに、近くにいたんだ。

綾に被害がなくて良かった。

もし、また前みたいに、何かされたら、俺は、また生きる気力を失うだろう。

綾を失った、前世での、あの時みたいに。


「久しぶりだな、晴明。相変わらずの美しい人間の姿で羨ましいぞ。」


「化け猫の、君に言われても、嬉しくはないけれどね。」


「ふんっ。せっかく、褒めてやったのに。」


生意気な妖。

あの晴明相手に、上から目線とは。

俺ですら、あんな口の利き方したこと無かったのに。

俺と晴明は、建前上、上司と部下だから仕方ないのかもしれないが。


「で?どうなの?もう力は充分戻ったんじゃないの?」


「充分すぎるほどにな。京の都と違って、こちらは自然も多く、日本一の

パワースポットだけあるからな。」


「まぁ、僕的にも好都合ではあるけどね。あの美しい京都の街が妖の残骸で

汚されるのは嬉しくない。」


「どうする?晴明。勝負してみるか?」


「どうして、決定権を僕に委ねるのさ、まるで、その言葉だと、君がこの戦いで

勝てる自信があるみたいじゃないか。」


「当然だろう。お前を仕留めるために、こっちは、これでも色々と策を練ったからな。」


1500年近く、憑依しながら生き延びた、化け猫と平安の世を駆け抜け、現世に

復活した晴明。


いよいよ、妖の大元の化け猫と対峙するときが、やってきた。

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