第71話

「何で、帝に寵愛されていた猫が、化け猫になってしまったんだ?」


「恐らく……、これは僕の推測なんだけれど、道満が放った猫を

始末したのが僕だったから、同じ猫としては納得しかねているんじゃないかな。」


「だって、その時、鼠に化けてたとはいえ、俺たち帝側の人間を食い殺した猫だぜ?」


「もしかしたら、その経緯を知らないのかも……。」


「道満は、どう思う?」


「え?俺?俺は今すごく居心地が悪いよ。だって、あの時俺が放った化け猫のせいで

転生した晴明たちに迷惑かけてるのかと思うと……。あの猫、あの時で300年位

生きてたって言ってたけれど、もし転生したんじゃないとしたら、凄いよね?

それとも、憑依したのかな。」


「1500年?そんなに長く……。人間はせいぜい長生きしても百年くらいよね?」


「化け猫だったら、妖なんだから、何でもありだよ。」


「対戦するとしたら、一筋縄じゃいかなさそうだな。晴明、勝ち目はあるのか?」


「1500年も生きながらえている妖がいるなんてね。勝ち目?勝てるかどうかじゃなくて

勝たなきゃならないとは思ってる。」


さすが、晴明。

ここぞって時は言う事が、格好いい。


綾が心変わりしないかなと心配になったけれど、俺の隣に、ずっといるところを見ると

その心配は無さそうだ。


「湊?どうしたの?」


俺のそんな気持ちを察してか否か、綾が俺を見ながら問いかけてきた。


「いや、別に何でもないよ。」


そう言いながら、俺はそっと彼女の手を掴み、ギュッと握った。

その動作に同じように手を握り返してきた彼女のことを絶対に今回も守ろうと、固く心に

誓う。


そんな俺たちの様子を晴明は、やっぱり見逃してはくれなくて、またいつものように

寂しそうな目で見ていた。


そんなにいちゃついているつもりはないのだけれど、晴明の視線をとても痛く感じる。


もっと、仲のいいところを見せつけてしまえばいいのかとも思うが、それも出来ず、

優柔不断な俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る