第68話

「なるほど、敵さんは、退治される前に、出雲に逃げたってわけか。」


「うん。そして、おそらく、出雲で力を蓄えているんだと思う。」


「晴明の式神たちも、力が弱まってるって言ってたよな?出雲に行けば

力が強まるのか?」


「うん。失いかけている力も取り戻せるはずだ。」


「ねぇ、もしかしたらだけれど、自分自身の力も弱まってきてるんじゃない?」


綾が鋭い質問を晴明に投げかけた。


「さすがだね、藤守さん。女性の感には敵わないな。うん。そうなんだ、京都に

ずっといればいるほど、自分自身の力が弱まってるみたいなんだ。多分、妖が、

何らかの術を僕にかけてるのかなと思う。」


「晴明の、生命の危機ってわけか。」


「……寒っ……今のダジャレ。」


「ご、ごめん。なんか俺も会話に参加したくって。」


道満が、しきりに謝った。


「でもさ、さっきちょこっと調べてみたら、霊感の強い人は行かない方がいいって

話もあるんでしょ?大丈夫なの?」


「そこなのさ。だから、僕と式神だけで行って、万が一のことがあったら

心配だから、ふたりを呼んだんだ。」


「万が一って、晴明らしくない発言だな。」


「前世でもそうだったけれど、僕だって、人間のはしくれだからね。

不死身だとは言い切れない。」


透き通るくらいに色白な晴明の肌が、余計に白く感じられたのは

俺の気のせいなのか、それとも、晴明の力が弱まっているからなのか……。


「分かった、何かあったら、全力で、助けるよ。」


「ありがとう、湊」


「守る順番は綾の次だけどな。」


「そうなるよね。」


「湊に、惚れ直しそう。」


「はいはい、そういう惚気は、二人っきりの時にやって。」


晴明は、面倒くさそうに俺たちの会話をあしらった。

本心は……多分、やきもち……だったんじゃないかな。

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