第65話

「お待たせ、良かったら、道満も食べてよ。」


持ってきたお盆をテーブルに置いた。


「なんか、ごめん。晴明に買ってきたお土産なのに

俺まで、ご馳走になるなんて。」


「いや、晴明の口に合いそうなのを選んだだけで

道満のことも考えて買ってきたから、遠慮すんな。

洋菓子とかも、あるから。」


「ありがとう。」


「遠慮してたら、すぐ無くなっちゃうから、食べて、食べて。」


「二人とも、優しいな。俺なんかのために……。」


「前世は、前世。現世は、現世なんだから、気にすんなよ。

だって、道満は、そうやって現世を楽しんでるんだろ?」


「そうだね、じゃあ遠慮なく頂きます。」


「ほらー晴明も眺めてばっかじゃなくてさ、一緒に食おうよ。」


「そうそう、食べよう、食べよう。じゃなきゃ、彼が遠慮して

食べられないでしょ?」


「そうだね。じゃあ、僕も頂くとしよう。」


北海道でベスト3に入るお土産以外にも色々買ってきたので、

きっとどれを食べようとしても迷うだろうと思っていたが、

晴明が最初に選んだのはチョコレートだった。


バレンタインデーが近いわけでもないけれど、最初にチョコレートを

選ぶなんて……。

なんだか癪に障る。


「どう?北海道のお菓子の味は。」


「なかなかいけるね。」


道満は、晴明がお菓子を口にした後は、遠慮なく、あれもこれもと

手を出して、口の中に放り込むように食べていた。


これが、本当にあの蘆屋道満なのか?

俺たちを前世で散々苦しめた敵。


そんな男が、今は、無邪気にお菓子を食べている姿を見ると

もう、あんな悲しい前世には戻りたくはないと思った。

やっぱり平和が一番だ。


まぁ、少しも楽しくなかったとは言わないけれど。


綾が、あの時代にも居てくれたから……。

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