第60話

「ずっと、こうしていたいな。」


「うん、俺も。」


「ねぇ、湊は1200年の時を越えて、転生したこと

良かったと思ってる?」


「思うよ。あの時、綾を失って茫然自失してしまうくらい

ショックを受けたんだから。」


「私はね、湊に再会できて、ちゃんとした恋人同士に

漸くなれたことは嬉しく思ってるよ。でも、どうせなら

何の力も持たずに生まれ変わりたかった。そして平凡な

女の子として、湊と一緒に生きていきたかった。」


「妖の大元さえ、潰してしまえば、多分、大丈夫だよ。

綾は普通の女の子として、生きていける。」


「普通の女の子になっても、変わらず好きでいてくれる?」


「普通の女の子だろうが、何だろうが、綾は綾だよ。

他の子なんて、全然眼中になんか入らない。ごめんな、

俺、愛情表現下手だから、綾に心配かけてるよな。」


「ううん、湊はそれでいいの。寧ろ、和歌とか詠みだしたら

何があったんだろう?って逆に疑問に思っちゃうよ。」



綾が望むなら、意地でも和歌だろうが何だろうが

詠んでやるつもりだけれど……。


そこまでは期待されていないようなのが、ちょっと

悔しい。


俺は何も言わずに、彼女を自分の方に抱き寄せた。


「積極的。」


「それ、俺の昨日の台詞。」


「そうだね。大好きだよ、湊」


可愛くて、愛しい綾。

そんな彼女の事を俺は、ずっとこのまま腕の中に

閉じ込めておきたいと思った。


そしたら、どんな危険からも彼女を守り切れると

思うから。


もう、二度と、綾を失いたくないんだ。

絶対に。


あの事件の思い出がフラッシュバックして

俺は、綾に見えないのをいいことに、ひとり涙したのだった。

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