第59話

そして、俺たちふたりは、一緒に朝を迎えた。


ふたりっきりで、しかも俺の部屋で朝まで一緒になったのは

初めてだったからだと思う。


一睡も出来なかった。


俺の隣で眠っている綾を起こさないように

そっとベッドを抜け出そうとすると


「もう、起きちゃうの?」


と綾に呼び止められた。


「眠い?」


「眠いっていうか……寝れなかった」


そっか、眠れなかったのは綾も一緒なんだ。


俺にはそれが、なんだか嬉しい。


「もう少し……湊と一緒にくっついていたい」


そんな風に言われて、何もしない男子がこの世にいるだろうか?


俺はその言葉をそのまま受け取り、綾がいるベッドに潜り込んだ。


「俺の、何処が、そんなに好き?」


「気遣ってくれるところとか、男らしいところとか、理由なんて

いくらでも思いつくくらい、好き」


「晴明よりも?」


「何、当たり前なこと聞いてくるの?あの人は、私たちの上司であって

それ以外の何ものでもないでしょ。」


そう言うと、綾は俺の背中に腕を回す。


「積極的。」


「湊の意地悪」


「ごめんごめん、嘘。」


「湊が好き、大好き。」


「俺もだよ。」


「湊に私の身も心も全部あげたんだから

湊の好きなようにして?」


「じゃあ、このまま布団めくっちゃっていい?」


「それはダメ」


「だって、全部、俺にくれたんだからいいじゃん。」


「え、やだ、恥ずかしいもん。」


そう言って、一糸纏わぬ姿を見られることを恥じらう彼女のことを

俺はとてもとても愛しいと思った。

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