第58話

と言っても、そのことは綾には言わないつもりだけれど。



「そんなに俺のことが好きだったなんて、嬉しいよ。

あの頃の俺に教えてやりたいもんだ。」


「でも、湊は任務に夢中だったんだから、しょうがないよ。

そういう仕事熱心な湊のことも嫌いじゃなかったから。

むしろ、好きだった。」


「綾って、偶に、いきなり聞いてる方も恥ずくなるようなこと

言うよな。」


「あ、私ってば、何言ってるんだろう……。」


「いいけど、俺も、綾の事好きだし。」


「湊だって、同じじゃない。そんなこと、さらっとついでに

言わないでよ。」


「だってさ、1200年前に、叶わなかったことが、今

叶っていると思うと、嬉しくて。」


「私も、嬉しい。

私がいなくなった時、そんなに悲しかった?」


「悲しいなんて言葉を超えてるよ。今でもさ、満月が綺麗な空を

見ると、あの日の事思い出して、苦しくなるくらいだ。

だから、綾、もう絶対、俺から離れるな。」


「離れない。絶対、湊と一緒にいる。」


そう言って、綾は俺の背中に手を回しながら、くっついてきた。


「ずっと、一緒だからな。」


綾の背中に俺も手を回して、彼女を抱き寄せた。




「今日は、帰したくない気分なんだけど。」


「いいんじゃない?もう何度も晴明の家には一緒に泊ってるんだし。」


「いいの?」


「何が?」


「分かってるなら、言わせんな」


「いいよ、今日は、朝まで、ずっと湊と一緒に、この部屋にいたい。」

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