このまま、ふたりで

第57話

久々に戻った北海道は、京都に比べたら

とても過ごしやすい季節になっていた。


真夏の一歩手前の一番好きな季節に、こちらに

戻ってこれて良かったなと思った。


恐らく、これから、対峙するであろう妖魔との

戦い前の休息を晴明は与えてくれたのだろう。


きっと、蘆屋道満とふたりで対峙する気はないはずだから。


だとしたら、綾とふたりの時間を楽しみたい。


本当なら、全てのかたがついてから、そうしたかったのだけれど

でも、せっかく貰った休暇だから……。


大学は、嬉しいことに、夏季休暇に入っていて

時間なら沢山あった。


俺の部屋に久々に遊びに来た綾に尋ねる。


「どうする?デートらしいデートもしてなかったし

どっかに一緒に行く?」


「湊と一緒なら、ここでも全然いいよ」


「えー?退屈じゃない?」


「全然。だって1200年前じゃ考えられないことだから」


「そう言うくせに、晴明に何度も口説かれてたんだろ?」


「そうだよ。私がずっと好きだったのは湊だったのに。

湊は仕事のことばかりで、私と色恋沙汰なんて考えも

しなかったでしょ?」


いや、綾だけじゃなく、誰とも色恋沙汰なんて考え付かなかった。

それくらい、俺は鈍くて、恋愛に疎い男だったんだ。

そんな俺が、1200年前も昔に晴明に口説かれたことに嫉妬している。


多分、綾はそのことを知ったら、喜ぶに違いない。

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