第53話

でも……。

だからと言って、簡単に、綾を晴明に譲る気なんて

さらさらないけどね。


まぁ……綾が、晴明のことを好きになったら

その時は……。


その時は、綾を譲ることが出来るのか?

1200年かけて転生した俺と綾の絆は

そんな簡単なものじゃないはずなのに。


きっと、綾に、こんなこと考えてたって言ったら

怒られそうだ。


『私は、物じゃないんだからね』


そう言いそう。


晴明の心の中が見えたら簡単なのに。

こいつは、絶対に、口を割らなさそうだし。


本気で綾の事を思っていたとしても

好きだなんて、口が裂けても言わないだろう。


何かの拍子で、ポロッと本音を言ってくれたら

楽なのに、そう簡単に一筋縄ではいかない。


天下の安倍晴明なんだから。

当然か。



「なぁ、晴明、蘆屋道満が見つかった今、俺たちに出来ることって

まだあるのか?」


「あると言えば、ある」


「じゃあ、無いと言えば、無いってことなんだな」


「君は、相変わらず、素っ気ないね」


「そういう晴明は、いつも秘密主義だったよな」


「それは、帝の傍で重要任務を任されていたからさ」


「そうじゃなくて」


「何か、他にあるかな?」


「綾の事、どう思ってるんだ?」


「彼女は、大切な部下だよ」


「本当に、それだけ?」


「前にも、言ったが他人の恋路の邪魔をする気は無い」


全く……

強情なやつだ。


あれだけ顔に出てることを自分自身で気づいていないんだろうか?


「綾に向ける表情がさ、いつも柔らかいんだよ、晴明は。

優しいっていうかさ。綾だけ特別扱いしてるのバレバレだぞ?」


「参ったな、当の本人と、その恋人にまで言われるとは」


「綾が何か言ったのか?」


「『何度口説こうとしても、無駄だから。』って、さっき

ダメ押しされたところさ」


「何度って、お前、いつの間にそんなに口説こうとしてたんだ?」


「何度って言っても、現世では、1度もないよ」


「現世では?ってことは……前世では違うのか?」

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