第50話

「せっかく、晴明の家に来てやったのに、お茶のひとつも

出してくれないの?」


「すまない、気が付かなかった」


「何か手伝う?」


綾は、その場で唯一の女子だったので、そんなことを言った。


「あ……悪いね、じゃあ頼めるかな」


晴明の「あ」の後の間がなんだか嫌だった。

その時、晴明は一瞬困ったような顔をしたくせに

そのあと、少しだけ笑顔を見せたような気がしたから。


困った理由なんて、きっと、綾の彼氏である

俺に対しての気後れだったんだろうなと思う。


『悪いね』


って俺には悪くないのか?

彼氏を目の前に、他人の彼女と二人っきりになるなんて

なんて思う俺は、心が狭いのか?


そう思っていたら


「あれ?君と彼女って付き合ってるんだよね?」


と蘆屋道満に話しかけられた。


「そうだよ、見てたら分かると思うんだけど」


「晴明は、知らないの?二人が付き合ってること」


「知ってるよ」


「君は気にならないの?」


「なってるよ、なんで彼氏いるのに、その本人の前で

二人っきりになろうとするのかなって」


「この家、広いからリビングからキッチン遠いしね」


「煽んないでくれる?」


「煽るも何も、さっきの晴明のあの表情を見たらさ

どう見ても、君の彼女に恋してるとしか思えないよ」


そうか。

蘆屋道満から見ても、晴明のやつ、綾の事好きなのが

分かるんだな。


「なんで、よりによってモテる男が横恋慕するんだろーね」


俺は思わずそんな本音を口にした。

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