第46話

食材をしまい終わった頃を見計らって

後ろからハグした。


「もー、お腹空いてるんじゃないの?」


そう言う彼女は、怒ったような言葉を使いつつ

その声は柔らかい。


「お腹空いてるけど、まずは綾を充電したい」


「じゃあ、3分だけね」


「何?その時間制限?彼女なのに?」


「正直に言うけど、ちょっと照れてます」


「それはいいことだ」


「良くないよ」


「なんでさ」


「わー、もう耳元とかで囁くように喋らないでっ」


そう言っている彼女は後ろから見たら、耳まで真っ赤になるほど

照れているのが分かった。


可愛すぎる……



「愛してる」


「うん……」


せっかく、ちゃんと聞こえるように耳元で言ったのに

うん……だけじゃ寂しいと思った。


「それだけ?」


「愛してる……湊」


「ずっと一緒にいような、どんなことがあっても

俺は綾を離さないから」


この言葉を俺は何回、繰り返しているのだろう……。


だけどやっと見つけた彼女との

甘い時間があまりにも幸せ過ぎて

その時間に酔いしれたくなってしまう。




言葉にできないくらいの

想いを込めて

俺は彼女を後ろから、ギュッと抱き締め直す。


「浮気すんなよ」


「湊こそ」


「俺は、絶対大丈夫だよ」


「じゃあ、私だって、大丈夫」


この時の俺たちは、その時、ある人物が

心を痛めていることを知らずにいた。


全く、知らずに……。

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