第42話

「俺、一人暮らしだぞ?」


「はいはい、知ってますとも」


「知ってますともって……身の危険とか

感じないわけ?」


「だって、守ってくれるって言ったじゃない」


「それは言ったけど……」


「それとも、湊の部屋に入ったら、湊が

オオカミになっちゃう?」


俺の心の中を見透かすように、綾は言う。


けど……俺はそこまでは考えてはいなかった。


「なって欲しいって言うなら、なるけど?」


ちょっと、揶揄うふりをして、そう言ってみた。


「じゃあ、なってもいいよ?」


「いいよって、綾って、そういうタイプなの?」


好きな女の子を前に動揺する俺を見て

綾はクスクス笑っている。


「あまり深く考えないでよ、ただ単に

湊の家に行ってみたいなって思ってるだけだから」


「そういう事か」


綾の言葉に何故か、ホッとする俺。


普通の男子なら、ここぞとばかり、彼女に手を出して

しまうものなんだろうけど……。


大事にしたいし

大切にしたい


そう思うと、簡単に手出しは出来なかった。


それでも彼女に触れたい気持ちはあるのだけれど。


「はい」


「ん?」


「オオカミになるかどうかは別として

手繋ぐくらい、いいだろ?」


俺はそう言いながら、綾の目の前に手を差し出す。


躊躇することなく、綾は俺の手を掴んだ。


「ずっと、一緒にいようね」


「勿論」


「大好きだよ、湊」


少し照れながら言う、綾があまりに可愛らしすぎて

このまま連れ去りたくなってしまった。


「……愛してる」


「ん?」


「なんでもない」


聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で

言うのが精いっぱいな俺だった。

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