第40話

それから、俺は綾の家まで、送ることにした。


「湊、なんかさっきから、しかめっ面だね」


「そう?」


「うん、心配?」


「心配だよ、綾に、何かあったらと思ったら

いてもたってもいられないくらいに」


「私、思い出しちゃった、二十日鼠に変えられて

晴明が逃がしてくれようとしたところ、

食べられたってところまで」


「思い出したのか?!」


「うん、湊は、あの頃は、ずっと私のこと

”相棒”って呼ぶだけで、名前呼んでくれなかったこと

湊と普通の恋愛をしたいなーって思ってたのに

それが出来なかったことも。全部ね。」


「ごめんな、あの頃は、妖魔退治にばかり集中してて

俺は綾の事、全然、構ってやれなくて」


「いいの。その代わり、せっかく生まれ変われたんだから

現世では、とびきり素敵な恋をしようね」


その時、無性に彼女が愛おしくなり

抱きしめたい衝動に駆られた。


しかし、丁度彼女の実家のある神社の前に着いてしまう。


「あーあ、せっかくいい雰囲気だったのに」


「本当だ」


「もうちょっと、一緒にいたかったけど、今日は

諦めて、帰るね」


「うん。今度、うちにも遊びに来なよ」


「湊って一人暮らしだよね?」


「あ……無理にとは言わない。でも、綾んちだと

なんか色々気遣って疲れるというか……」


「え?そうなの?お父さん、あれでも喜んでるんだよ?

未来の婿養子にしたいとかって、この間、酔ってるときに

言ってたし」


「マジ?」


「さぁ、どうでしょう?」


未来の婿養子って……。

俺に神主になれとでも?


いやいや、その前に、婿ってことは

綾と結婚?


なんだか、気が遠くなるようなくらい先の話だと

思ってたけど、意外とそうでもないのかな……。


綾の家から一人歩いて、自宅に帰る道すがら

俺はそんなことを考えて歩いていた。

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