第33話

式神使いか

俺の焔の力とも綾の呪符の力とも違う

そのお手並みをいつか見てみたいものだと

俺は思った。


「蘆屋道満も、やっぱりこの時代に転生してるのかな」


「僕らが転生してる時点で、きっと……。そう思ったから、北海道に

来たんだ。一人であんな敵を相手にする自信が無くてね」


多分、俺の予想だけれど、彼の式神を使って、俺たちのことを

探していたんだろう。


それにしても……

上司だった安倍晴明が、俺たちの同級生なんて

なんか笑えてしまう。



笑いをかみ殺しながら

東の方を見ると、何処か寂しそうな目をしながら

綾を見ていた。



なんとなく……

嫌な予感がした


ってゆーか、多分、俺の予感は当たっている気がする……。



「蘆屋道満は、どんな雰囲気になって転生してるのかな」


ここまで話しているのに、彼女は蘆屋道満にされたことを

しっかりと思い出してはいなかったようだった。


多分、あの時、あの作戦を思いついた安倍晴明こと東なら

余計に話しづらいだろう。


綾がいつか思い出すまで、俺の口からも口外しないことにした。


だけど、絶対、綾から離れたりしない。

必ず守るって決めてるから。


今度こそ、ふたりで幸せになろうと思っているから。



俺がそう思っていたのに、東は、少し言い淀みながら

話そうとしていた。


今後のことを考えると

やはり安全のため言っておいた方がいいと思ったのかもしれない。


「ごめんね、藤守さん」


「え?」


「1200年前のあの時、君に術をかけたことには

物凄く責任を感じているんだ。

君には、その時の記憶が、まだ戻ってないようだけれど……

思い出したくないよね」


「術?どんな術を私にかけたって言うの?」


「君を二十日鼠に変えたんだ、あの日は確か月が綺麗な夜だった……」




そう、1200年前のあの日のことは

今でも思い出す度に胸が締め付けられる。


帝の屋敷に呼ばれた晴明のお供として

俺と綾は付いて行ったのだが

その時、急にあいつがやってきて

屋敷中で暴れまわったんだ……


何人もの従者がいたというのに……


彼ら全員を逃がすために

晴明は、術をかけた


二十日鼠に変えて

全員逃がす予定だったらしいが


まんまとその術を見抜いた

あいつは、猫に化けて

俺たちを欺き、そのうちの何匹かの

二十日鼠に化かされた、従者を

食い殺した。


助けることが出来なかった

その中のひとりが、綾だったんだ……。




月を見ると

切なくなるのは……

あの日の惨劇が思い起こされるからに

他ならないんだ……。

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