第31話

「お前っ、よく言うよな、毎回事あるごとに任務だ任務だって

おかげでとまでは言わないけれど

そのせいもあって、綾とは仕事以外の距離を詰められなかったんだ」


「君たちとは、そういう契約なんだから仕方がなかったんだ」


「主従関係ってやつか」


「そう、君たちは僕の部下だった」


「現世でも、部下として扱うつもりなのか?」


「そうは思ってない、この時代は、大昔に比べたら

一見平和な世の中だからね。普通に一般人として暮らしたいところだよ」


「でもさ、東は、見るからに人を惹きつける魅力があるから

一般人として生きてくのは無理なんじゃない?」


「そうだね、ところで、部活の終わり何時なの?」


「あと30分くらいってところじゃないかな?

綾ひとりで居残り練習するとか言いそうだけど

今日は、切り上げて貰おうと思ってる」


「じゃあ3人で再会を祝そう」


まだ十代なのが悔しい。

ビールでも飲みながら、祝杯を上げたいところなのに……。



そして部活終了の時間になった。


次から次へと片付けをして弓道場を去っていく部員たち。

綾は、彼らの姿を横目に、的を狙って矢を放つポーズをしていた。


「お疲れ」

「お疲れ様、今日も一仕事していく?」


「そうだな、そうしたいのも山々だけれど

今日は、先約があるんだよね」


「藤守 綾さん、僕が分かります?」


「この間、廊下ですれ違って微笑んでた人ですよね?

それから、学内でも一番のイケメンだと女子の間でも

有名人」


東は、ちょっと肩透かしを食らったようだったので

俺は、説明を付け加える。


「綾は、まだ転生前の記憶が少ないんだよ」


「ん?転生?」


「東は、俺たちと同じ時代を生きていた転生仲間なんだよ」


「そうなんですか?」


「藤守さんの敬語は、わざと?」


「わざと?」


綾は、不思議そうな顔をする。


「俺たちの、主がこの人だったんだよ」


「え?もしかして毎回指令を出していた人って

あなただったの?」


「いっつも、ふたりの仲を邪魔するみたいに

指令出してて、ごめんね」


「私と、湊ってそんなに仲良かったんですか?」


「仕事上では、最良のコンビだったよ、皇くんから

聞いて無いの?」


「多少は聞いてますけど、盛ってるのかなとか

思ったりして」


彼女は、チラッと俺の方を見る。


「一緒に、何度も退治して、あれだけ息がぴったりなんだから

そうに決まってるじゃん」


「そんな優秀な私たちの主ってことは

東くんも、かなり凄い人ってこと?」


「当然です」


彼女は、まだ彼が何者なのか

思い出すことが出来なかった。


それくらい

思い出したくないくらい

あの事件は、とても悲しいものだったことを

知っているのは

俺と彼だけだったから。


簡単に主であった彼の正体を

話すことは憚られるような気がした。


その時までは。

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