第30話

それから、数日と経たないうちに

先日見かけた人物の名前を知ることになる。


入学式から休学していたとのことで

やっと後期から晴れて大学に通学してきたらしい。


そんなわけで、入学早々、物凄くイケメンなのに

イケメン好きの女子の餌食にはならずに

済んだようだった。


しかし

いつも、沢山の女子に囲まれていて

ファンサービスも素晴らしい彼は

大学中の人気者になるのは遅くはなかった。


それなのに……。


人気もそんなにあるとは言えない弓道部に

何故か入部したいと言ってきた。


話を聞けば、彼と同じ初心者だという。


イケメンが

自分の好きな女子の傍にいるのは

落ち着かないなと思った。


我ながら、心が狭いとは思うが……。


きっと何れは、綾が、教えたりするんだろう。


その時、俺は冷静でいられるんだろうか……。


そんなことを考えていると

噂の彼が俺の傍に近づいてきた。


「よろしく、東 千景って僕の名前だよ。

えーと、君は皇 湊くんだよね?」


もう、こっちの名前知ってるとは。

俺って意外と有名人?


「そう、東と同じ1年だよ」


「そうだよね、知ってる」


そう言いながら、彼は微笑む。


うーん、女子なら喜びそうだけれど

その微笑みが、俺には少し怖い。


多分、オーラでは俺より上のはず。

こいつの名前、あの1200年前の名前

一体何だったっけ?


なんか凄く有名な名前だった気がする。


「東の出身地って、こっちじゃないよな?」


「標準語喋ってるつもりなんだけど、やっぱり分かる?」


「ああ、何か雰囲気とかが違う」


「僕の出身は、京都。

生まれも育ちも、ずっとそっちだった」


「京都?」


「懐かしい響きだよね」


彼のその表情は、柔らかさの中に

何か秘めたものがあった。


「苗字、珍しくなかったら

すぐわからなかった」


「もしかしたら、お前

平安時代最強の陰陽師と言われてた……」


「僕の事、それくらいは知ってるんだね」


「知ってるも、何も知らなかったら、日本人じゃないでしょ」


「有り難いよ」


「まさか、生まれ変わって三人でまた会えるなんて

思いもしなかった」


「僕たち、三人が同じ時代に生まれ変われるとは

合縁奇縁なものだよね」


東は、身なりだけじゃなく、雰囲気も話し方も

雅やかな感じだった。


男の俺から見ても、美しいという言葉が良く似合う。

その辺の女子よりも、ずっと綺麗で華やかだった。


「あ、じゃあ綾のことも、もう調査済み?」


「勿論……あの時は助けられなくて、済まなかった」


「あの時の事、お前も覚えてるんだな」


「彼女は、まだ思い出してない?」


「うん、思い出そうとすると、頭痛が起きるみたい

思い出したくもないよな、あんな悲劇」


「そうだよね」

「でも、3人だけ揃って、あの憎き敵だけが

転生しないのって、上手くいきすぎだと思わない?」


「ん?お前なんか知ってんの?」


「知ってると言うか……」


「飯でも一緒にいかないか?」


「彼女は、どうする?」


「綾は……」


「大丈夫、僕は、人の恋路の邪魔なんて

する気はないから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る