第27話

彼女の家が分からないので

繋がれた手のまま、彼はついて行くしかなかった。


何処に連れていかれるのかと思っていたら

町中にある神社の前で、彼女は言った。


「うち、ここなんだ」


神主の娘なのか、綾は。

どうりで、幼い頃から、弓道をやっていたことにも

合点がいく。


「ただいまー、お父さーん」


彼女が父親呼ぶ。


「今日は、早いな……。ん?その隣の人は?」


「私の彼氏、皇くんだよ」


「彼氏?!お前、彼氏なんて作らないって言ってたじゃないか」


「まー、でもちゃんと見極めたつもりだし、彼氏に見合うだけの

人柄とかは兼ね備えてる人だよ。まだ知り合ったばかりなんだけど

同じ大学で同学年で同じ弓道部なんだ」


「大学に入ってから知り合いました。皇です、よろしくお願いします」


彼は、いきなり彼女の親に紹介されたというのに、取り乱すことなく

しっかりと挨拶した。


「綾……、確かに、お父さんは、付き合ってる人がいるなら

ちゃんと紹介するようにとは言ったが、だが、お父さんだって

心の準備って言うものがある」


「もう、そのくらいにしてあげたら?お父さん」


そう言って後ろから、彼女の母とおぼしき人物が現れた。


「そのくらいも、何もまだちょっとしか話してないぞ

私は


「話すなら、家にあがってもらえばいいじゃない、さぁ

どうぞ、良かったら、上がってください」


彼女の母親らしい人物は、彼女の父親の言葉を遮って、声をかけてくれるのだった。


「どうぞ、湊」


「でも、綾のお父さんが」


「構わない、構わない。だって、私に付き合ってる人がいるって

きいてから、毎日のように、早く家に連れてこいだの

紹介しろだのって言ってたの、お父さんなんだから」


躊躇している彼の腕を掴んで、彼女は家に入らせようとするので

彼は、仕方なく、靴を脱いで、彼女の家に入った。


「湊、お腹空いてない?」


「いや、びっくりしすぎて、食欲湧かないや」


「そう?じゃあ、手っ取り早く、私の部屋に案内するね」


彼女は、にっこり笑いながら、そう言った。

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