第26話

「今日も無事、退治できて良かったね」


振り返って笑う彼女を抱きしめたい衝動にかられる。


そっと彼女を引き寄せようとするが、

拒む様子が……


俺、がっつき過ぎ?


「ここ落ち着かなくない?

また妖魔が出てきたらって……」


いや、それが嫌だから、今日は早々と

妖魔退治をしたんだけど……


と思いながら彼は言葉を飲み込んで

少しだけ顔を引きつらせながら

笑顔をみせる。


「うちに来ない?」


「え?」


「私の家、この大学から近いんだ」


待て待て待て!


大学から近いとか遠いとか

そういう問題じゃないだろ


積極的なのはどっちなんだよ……


「それとも、どこかお店でも……」


「綾に任せる」


「私に一任してくれるの?

良かったー

ありがと!」


なんだか積極的すぎやしないか?!


きっとこれは、何か裏があるに違いない。

俺の感だけど。




「湊の家って、ここから1時間くらいだっけ?」


「もうちょい、短い時間かな」


「そっか」


ん?

なんか、綾、緊張してる?


やっぱり、そういうことなのか?


「あのさ、綾、気持ちは嬉しいけれど

こういうのって、勢いに任せちゃいけないと

俺は思うんだよね」


「でも、お試し期間も過ぎたことだし」


「それは、そうだけど……」


「緊張してる?」


「そりゃーするでしょ」


「私も緊張してるよ、一緒だね」


そう言いながら、彼女はギュッと彼の手を握った。

その手は少し冷たくて、

彼女が緊張しているのは、嘘ではないことが

証明されている



「あのさ、やっぱりこういうのは順を追って……」


「うん、そうだよね」


「お酒でも買ってく?」


「俺ら、まだ未成年だろ」


「あはは、そうだよね!」


そうかと思えば、明るく笑う彼女。


一体、どういうつもりなんだろう。

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