第25話

このまま、彼女をずっと

自分の腕の中に抱きしめていたい。


柔らかい香りに包まれながら……


術なんて使ってないって綾は言ってるけど

こんな甘い香り、嗅いだことがない



漸く恋人同士になり

甘い言葉を囁き合い

ふたりの視線が重なり

顔が近づいてキスをするかしないかで

動きが止まる。


「どうする?」


「このまま一緒に、あの世に行くには

まだ早いよね」


「じゃあ、続きはまたあとで」


「うん、今日も、私たちが相手してあげないとね」


いつの間にか、二人の周りを、この日もかなり多くの妖魔が

取り囲んでいた。


日増しに増えてないか?

なんで、倒しても倒しても、次から次へと……。


「綾、俺の傍から離れんなよ」


「離れろって言われても離れない」


「いい覚悟してるじゃん」


妖魔が右から左からとふたりを狙う。


毎回、二人っきりになっても、こう妖魔が

うじゃうじゃ出てくるんじゃ、おちおち

甘い雰囲気にもなれやしない。


俺ら二人の邪魔をしたいってのか?

こいつらは。


今日はいいところまで行ったのに

この様だ。


彼は、苛立った感情をぶつけるが如く

次から次へと妖魔を退治していった。


さっさと片付けて、さっきの続きを

させてもらう。


彼女の方を見ると、今日も余裕綽々で

妖魔退治を行っていた。


呪符の数も、まだまだ充分あるようだ。


嗚呼。


何故に、平和な世の中に生まれ替わり

最愛の女子に出会ったと言うのに

俺は、こんな妖魔退治に未だに縛られなければ

いけないんだろう。

苛立つ、気持ちは、全て妖魔へ。


そのせいか否か

この日は、前回よりも妖魔の数が多かったのに

退治した時間は短かった。



妖魔退治が終わったら、彼は彼女に

癒されたいと強く強く思っていたからなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る