第51話

「吉田さんって、下の名前は何て言うんですか?」


「遥です。遥か彼方の遥です。」


「遥さんか、俺は…」


「桜井は、下の名前で呼ぶのは今は禁止」


そう言って僕は桜井の言葉を遮った。


「名前聞くくらい、いいじゃん、だいたい今は禁止とか

良く分からないんだけど」


桜井は痛いところを突いてきた。

咄嗟に出てきた本音。

今は…とか

普通なら言わないけど…

でも…


「どっちにしても、名前で慣れ慣れしく呼ばないこと」


「なんか…雨宮、風紀委員長みたいだな」


そう言いながら、桜井は笑い出した。


言われてみれば、

桜井には、あれもダメ、これもダメ

とダメだしばかりしている気がする…


でも、

この時の僕は焼きもちを妬いていて

桜井に彼女の名前を気軽に呼んで欲しくなかった。

僕だって、まだ、吉田さん

っていう呼び名でしか、彼女のことを

呼んでいないのに…




とか

いつか呼び捨てしてみたい…

きっと、多分

まだまだ先になりそうだけど…



遥…か…


年上の彼女を

呼び捨てしたりしたら

やっぱり

彼女は、嫌な顔をするのだろうか…

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