第24話

社長の肩…

少し濡れてる…。


もう少し、近づいてもらった方が

本当はいいのだけれど…


ここで


もう少し、こっちに寄って下さい


なんて言っていいのかな…

仮にも社長だし、初対面の日だし…

積極的な子とか思われるのも抵抗があるし…


傘は大きめの傘でしたが

やはり、二人で差すには

少し小さくて…


付き合っていない私たちには

この距離感が限界でした。


少なくとも、私には…


漸く、見えてきた私のアパートの前で

私は足を止めました。


「ありがとうございました、ここでいいです」


そう言いながら、社長にタオルでも

貸した方いいのかとか、

家に上がってもらった方がいいのかとか

頭を悩ませました。


流石に…

家に上げるのは、ちょっとマズい。

部屋の中、片付いてないと思うし…

って、そういう問題じゃないですね。


社長を誘ってると思われるのも

軽い子だと思われるのも嫌だったので

咄嗟に、バッグからハンドタオルを出して

社長の肩を拭きました。


「すみません、私が一緒だったせいで

スーツを濡らしてしまって…」


「気にしなくて、いいです、僕が好きでしたことだし」


「でも…」


「この、タオル借りててもいいですか?」


「構いませんけど?あ、タオルなら今持ってきましょうか?」


「大丈夫です、じゃあ、これ借りますね、返すのは来週でいいですか?」


「別に、いいので」


「ありがとうございます。じゃあ、来週から、職場で…また。

おやすみなさい。今日は、付き合ってくれて、感謝してます」


「そんな、私こそ、沢山ご馳走になってしまって、

しかも、送ってもらったりして…また、会社で、よろしくお願いします。

おやすみなさい、気を付けて帰って下さいね」


そう言って、私は、アパートに戻りました。

玄関を開けると、社長の姿が見えて、私が部屋に入るのを

待っていたようで、同時に、後ろ姿を見せながら

アパートの前を立ち去っていく様子が見えました。

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