第8話

仮にも会社なのに…。

公私混同している自分。

だけど、とりあえず、これで彼女と今後話す接点は掴んだ。

我ながら、いい仕事してる。


「来て早々に、お茶汲み的なことをさせてしまって

申し訳ないです」


「いえいえ、私こそ、仮にも面接に来たというのに

こんなにリラックスさせてもらってもいいのかなぁと…」


「吉田さんを含め、4人しかいない職場なので

あまり畏まらないで下さい。」


爽やかな営業スマイルを振りまく僕。

とりあえず、心象を良くしておいて今後に繋げないと…


「今日は、ほかのお二人はお休みなんですか?」


「今は、コロナ禍なので、テレワークしてもらってます」


「そうなんですか。お一人だけ出勤なら、大変ですよね」


「まさか、会社を立ち上げて1年も経たないうちに、こんなことになるとは

思ってもみませんでした」


「私も、こんなに転職に苦戦するとは思ってもみなかったです。

でも、今日は、ご縁があって、こちらでお仕事させてもらえることになって

本当に良かったです。ありがとうございます。」


「いえ、急な面接だったのに、こちらこそ、助かりました」


初対面の会話って、こんな感じでいいんだろうか?

なんか、もっとこう進展するような会話がしたいのだけれど…

でもなぁ、初日だし…

まだ、仕事残ってるから、帰宅時間を合わせるのも今日は無理だし…


珈琲はとっくの昔にカップの中から無くなっていた。


女々しいぞ、これから毎日顔を合わせていくんだから

今日は、これくらいで…


「社長、お一人でお仕事大変でしたでしょうし、今日からは、私に

出来ることがあれば、なんでも言って下さいね!」


「ありがとうございます。でも、初日なので…」


「お構いなく、とりあえず、そこの郵便物、開封した方がいいんじゃないですか?」


なんか、もう吉田さん、仕事モードに入ってる。

今日くらいは、まだ初対面だし、珈琲飲んで、世間話でもしたいなと思ってるんだけど…


「社長?」


「そうですね、もう1週間近く郵便物を開封する暇がなくて、お願いできますか?」


「大丈夫ですよ」


まだ、吉田さんと一緒にいられる。

最近、一人で仕事していたから、帰りも遅くなろうがどうだろうが

気にしてなかったけれど、今日は、ちょっとやる気が湧いてきたかも。


そんな僕の気を知らずして、吉田さんは山のように積まれていた

郵便物を手際良く開封していくのだった。

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