第3話

「長老、よろしいでしょうか?」

「ケイか、少し待ってくれんか」

「そういえば予言の時間でしたね...申し訳ございません」

「なに、気にせんでよい」

そこには、老人にしては若々しく整った肉体と、結ばれた長い髭を持った人間がいた。

長老と呼ばれる者の住む家は、他の民家と何ら変わらない質素な家だった。

そして、長老は予言と呼ばれる行為を披露し始めた。

「今宵、龍の封印が解かれる、封印を解く者と力を合わせるなら、森の巨悪を打ち倒され、平穏が訪れるであろう」

長老は、聞こえるか聞こえないかという小さな声で、脳内に浮かび上がる文字を読み上げた。

「長老、予言の方は?」

「ふむ、一月前の予言では異邦の地から訪れる者あり、そして今回は今宵、龍の封印が解かれ、森の巨悪は打ち倒されると出た」

「長老!実はその予言のことでお話が」

そして長老は、ケイから異邦人が先程来たということを聞き、異邦人こと元春の元へ向かった。


頭痛の影響か、大量の汗を流しながら眠りにつく悠吾を、サシャ、ケイ、長老の3人が見つめていた。

「サシャ、先程この御方が来られたと?」

「はい、長老の予言を聞いた感じでは、やはりこの御方に間違いないのでは?」

「ふむ、しかし龍の力は呪いとも呼べる何かがある...一歩間違えればこの御方が死ぬ可能性も...」

考え込む長老に対し、サシャは強く訴えかける。

「ここは一か八かやるしかありません!"女王"を倒さない限り、我らの平和はありえないのです!長老、どうかご決断を!」

「そうだな...よし、龍の石像を用意しよう!」

「長老!」

長老の決断により、サシャの目が輝きを得る。

「ではケイ、サシャ、祠から龍の石像を運んでくれぬか?」

「分かりました、行くぞサシャ!」

「うん」

そうしてケイは、サシャを引き連れて祠と呼ばれる場所へ向かった。

村から少し外れた場所に、祠と呼ばれる場所、そして中央の祭壇のような場所に、とぐろを巻いた龍の石像があった。

「触るなよ、そいつに触れれば祟りが起こるからな」

「分かってるって」

ケイはサシャに注意を促しながら、布で石像を包み、2人がかりで悠吾の元へと運んだ。


起きろ...この時を待っていた…お前なら...


「うわっ!?いって...」

夢の中で威圧感のある低い声が聞こえ、飛び起きた悠吾は相も変わらず頭痛が引かなかった。

「‪✕‬▽□▽○!?」

「え?ってうぉ!」

先程の少女以外に見知らぬ顔が2つあった。

そして、相変わらず彼等の言葉は理解不能だった。

しかし彼等はそんな悠吾を気にすることなく、布の敷かれた龍の石像を指差す。

「これは...?」

少女がジェスチャーで手を触れるよう促す。

(触れってこと?それ、なんの意味があるんだ?)

とりあえず言われた通り、石像に触れてみる。

すると、石像は突然辺り一帯を照らすほどの、淡い橙色の光を放つ。

「ちょ、何これ!?」

数秒の発光の後、目を開けるとそこには空中を浮遊する何かがいた。

「お前のような奴が来るのを待ってたゾ?」

可愛らしい声で悠吾に向けて、その生物は話し掛ける。

「はぁーーーーー!?何これーーーーー!?」

悠吾はいきなり現れた生物に、数秒遅れてようやく驚きという当たり前の感情を発現させる。

「おぉ...これが龍神様のお姿...」

「やったぞサシャ!」

「えぇ!」

突然の状況に、三者三葉の反応をする。

「お前さっき死にかけてたけど大丈夫カ?」

「え、なんか喋りかけてきた…怖い...」

「大丈夫そうだナ」

この世界の不気味な生き物達に対応しきれていない悠吾は、まだ会話がまともに行えなかった。

「龍神様!いきなりで申し訳ないのですが、我等を救って下さいませ!」

そして、長老が浮遊する生物に向かって懇願する。

「龍神様?俺の名前はデスグラシアって言うんだけド」

「龍神様!どうか我等に救いを!」

「私からもお願いします」

長老とケイが頭を下げ、それに続いてサシャも頭を下げる。

そして、家の外で一連の流れを見守っていた村の人間が続々サシャの家へ押し掛け、皆んな一斉に頭を下げる。

「だってサ」

「え、俺?」

悠吾は自分を指差し、確認をする。

「俺の封印を解いたお前以外に誰がいるんだヨ?」

「は?いやいやいや状況が分かんないけど!?そもそもお前は何なんだよ!」

「だからデスグラシアだって言ってるだロ?てかお前こそ名乗ったらどうダ?」

「はぁ?俺は八木悠吾だけど?」

すかさず、長老が悠吾に懇願をする。

「ユーゴ殿!どうかお願いします!このままではジャイアントアラクネーにこの村を破壊されてしまうのです!」

「ジャイアントアラクネー!?あれ、てか言葉が分かる...頭痛も綺麗さっぱり無くなってるし…」

謎が謎を呼ぶ展開に、悠吾は一旦頭の整理をすることにした。

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