第2話
森の中をひたすら進む悠吾だったが、出口らしい出口は一向に見つからず、気付けば夕方になっていた。
「はぁ...はぁ...」
(頭が痛い...体が重い...)
数時間歩き続けた影響か、身体が悲鳴を上げていた。
(一旦...休憩しないと...)
大きな木陰を作り出す大木を見つけ、そこに向かう。
グルルル...
しかし、休憩しようと足を止めた矢先、獣の低い唸り声が聞こえた。
グルルル...グルルル...グルルル...
木々に身を隠していたその獣が姿を現す。
(タイミングが最悪だ...)
綺麗な灰色の毛並みをした狼が、逃がさないと言わんばかりに悠吾を睨みつける。
更に悠吾は気付きたくない事実に気づいてしまう。
(1匹だけじゃない...多分後ろに2匹...)
狼とは群れを形成する動物であり、狩りも的確なチームプレーで相手を追い詰めていく。
悠吾は絶体絶命の状況だったが、唯一の救いは先程の大蜘蛛だった。
(あんなの見た後じゃ、お前ら如きでビビんねーよ!)
痛む頭で何とか突破口を見出す。
狼達も自分達とほぼ同じ大きさの生物を相手取るため、迂闊に手は出さず、悠吾の様子を伺っていた。
悠吾は意を決して真正面の狼に対して、ダッシュで急接近した。
それに続いて、後ろの狼達も猛ダッシュで悠吾を追い掛ける。
目の前の狼は、悠吾の首元目掛けてジャンプし、口を開き、ずらりと並んだ鋭い歯を見せつけてくる。
悠吾はギリギリまで目の前の狼に近づき、僅か数十cmの所で右方向へと体を逸らした。
流石の狼も、空中で体を動かすことは出来ず、そのまま後ろにいた狼達と激突する。
「元ハンドボール部舐めんな!」
そう言い残すと、悠吾は狼達が倒れている隙に森の奥へと走り出した。
もう日が沈むという事を辺りの色合いで感じていた悠吾は、さらに焦っていた。
夜の森が危険だということは、教えられなくとも身体で感じていたからだ。
(それにしても...)
悠吾は傍の大木に手を付き、もう片方の手で頭を抑える。
先程よりも頭痛が酷くなり、身体も重くなっていた。
しかし、僅かな希望も見えていた。
「家...人...ようやく...」
今いる場所から少し先、民族衣装を着た人間達が闊歩し、石造りの家が存在していた。
「あ...や...ば...」
希望に向けて歩き出し、森を抜けた所で、悠吾はこれまでの疲労や体調の悪化が重なり、意識を失い倒れてしまった。
目を覚ますと、悠吾はベッドの上にいた。
「あれ...いっつ!」
寝ていたはずが、疲労感は無くなったものの、頭痛が先程よりも酷くなっていた。
(頭が割れそう...)
そんな悠吾をよそに、茶褐色の肌をした少女が悠吾の近くに駆け寄る。
「☆✕▽□!?」
(やばい...何言ってるのか分かんねぇ...)
「あーえーと、ハロー!ナイストゥーミーチュー!グーテンモルゲン!ボーノー!」
頭に思いついた言葉をひたすらに繰り出す悠吾だったが、相手はちんぷんかんぷんと言った顔をしていた。
(どうしよ...どうしよ...)
「ぐっ...いってぇ...」
パニック状態になったせいなのか、また頭の痛みがぶり返してしまう。
そんな様子を見て、少女は悠吾を再び横にし、布団を掛ける。
「なんか迷惑かけちゃってごめん、ありがと」
そして、少女はちょっと待っててというジェスチャーをし、家を出てしまった。
悠吾の看病をしていた少女は、茶褐色の少年の元に来ていた。
「サシャ!さっきの男は大丈夫そうか?」
「うーん...まだ万全って訳ではなさそう」
「そうか...しかし、本当にあの男が予言の者だと言うのか?」
「分からない...けど、そうあって欲しいと思ってる..."女王"はこちらに近付いてきてるんでしょ?」
「あぁ、近付いてきてる...」
サシャの怯えた瞳に何もしてやれない虚しさが、ケイの心に針を刺すような痛みを与える。
「ケイ、長老に話をするべきだと思う」
「分かった」
僅かに瞬いた希望を逃すまいと決意を固め、少女サシャと青年ケイは、長老と呼ばれている者の元へと向かった。
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