テラリウムアドベンチャー

八雲 那覇斗

第1話

2524年8月

「面倒だし残り1人は...えーと同じ年のこいつでいっか、ちゃんと車で死んでるなっと、なぁ?丁度500年前で縁起いいと思わねぇ?」

「お前適当にやんなよ?問題が起きたらクビ案件だからな?」

複数のモニターの前で、会話している二人は何やら作業中だった。

「いやお前クッソ面倒な資格を取って、やる事がこれだぜ?ガッカリもいいとこだっての!」

一人の男が目の前のモニターを指差しながら声を荒げる。

「クソ面倒な資格がいる以上、ミスった時の責任がクソ重いんだよ!」

「しーらね!憂さ晴らしに検査してないやつを"ゴミ箱"にぶち込んでやるわ」

「俺は知らねーからな?」

「ビビり過ぎだろ?どうせ魔法の適性が無いやつは1日で死ぬんだから変わんねぇっての」

「はぁ...」

「大体上の奴らだって杜撰な管理してんだろ?何回か"ゴミ箱"の中で想定外の事が起きてたっぽいし」

「あー最近だとでっかくなったトカゲに手を焼いたって話は聞いたな」

「いい加減なことやっといて俺達には何も報告無しとか舐めてんのか!?何が魔法による世界的な革命だよ!」

「まぁでも魔法っていう未知の力を科学的に解明出来れば、革命が起きるのは間違いないわな」

「テラリウム実験だっけ?SF映画だとこういう実験って大抵失敗するもんだけどな」

「どんな失敗するかは正直想像つかんけどな、で、これからゲート開きに行くわけ?」

「おう、こればっかりはお前の忠告でも止まらんからな!」

「勝手にしとけ」

こうして一人の男は発達した科学の力で、ゲートを開きに部屋を出た。


2024年8月

「あっつ...」

夏休みの平日、親は共働きでいないため、冷蔵庫にあるアイスは漁り放題だったが、生憎目当ての物はいくら探しても無かった。

「まじか...」

(コンビニ行こ)

八木 悠吾(やぎ ゆうご)は近場のコンビニへ行くため、家を出た。

「いらっしゃいませー」

元気な店員の挨拶を横目に、アイスコーナーに行くつもりだった悠吾はあるものを見つける。

(あーこの漫画新刊出てたんだー)

そして、アイスコーナーに直行せず、漫画に気を取られていた悠吾にある悲劇が襲う。

悠吾は本に夢中で、目の前に迫ってくるそれに気付かなかった。

(車?)

気付いた時にはコンビニの壁を突き破っていた。

次は真正面にいる悠吾が轢かれる、はずだった。

件の悠吾は、どこへともなく落下していた。

ただひたすらに暗く、何も見えない場所を落下していたのだ。

そうして、数秒間の落下を経験した後、バシャアッ!という音と共に、強烈な冷たさを身体で味わうことになった。

悠吾は何が起こったのか分からず、その場でじたばたもがく。

水の中に落下したのだと頭で整理し、水の中から顔だけを出し、立ち泳ぎをする。

どこかは分からずとも、森の中にいることだけは察することが出来た。

悠吾は近くの陸地にあがり、鬱蒼と生い茂る緑を眺める。

(どこだよここ...)

スマホで現在地を確認しようとするも、充電のために家に置きっぱなしであることを思い出し、額に手を当てる。

(まじかよどーすんだこれ...とりあえずそこら辺歩いてみるか…)

悠吾は内心物凄く焦っていた。なにせ、急に知らない土地に飛ばされるなどという状況は初めてだからだ。

更に言えば、スマホも無いため、位置情報も何一つ無い状況だ。

ひたすら現状を打開するための何かを見つけるため、森の中を一直線に進む。

ひたすら進むこと30分程すると、悠吾は衝撃的なものを目にする。

そこにいたのは、人間など比にならない大きさの蜘蛛の巣だった。

よく見ると、悠吾のいる場所より奥には、大量の蜘蛛の巣が張ってあった。

周りの緑を圧倒するほどの白は、もはや景観を変えていると言っても差し支えなかった。

恐る恐るその蜘蛛の巣に触れてみると、糸の1本1本が太く、指に容易に引っ付く粘度の高さを見せた。

(うわぁ粘ついてて気持ち悪ぃ...)

気味が悪くなり、引き返そうとした所に誰かが声を掛ける。

『ここらの動物は食い尽くした気がしたんだけど、また新しい獲物かい?』

声のする方を振り返ると、そこには黒光りする大きな八本足の化け物がいた。

悠吾が迂闊に糸に触れたため、蜘蛛の巣に振動を起こし、それをキャッチしたようだ。

50m程離れていたにも関わらず、その化け物は八本足を器用に動かし、糸の上を走り、木と木の間を跳び、すぐに距離を詰めてきた。

『あら?びっくりして腰が抜けちゃった?』

悠吾は化け物の接近を許した挙句、恐怖で足が震え、終いには尻餅を着いてしまう。

『このジャイアントアラクネーを知らずにこの森へ足を踏み入れたのが運の尽きだねぇ』

ジャイアントアラクネーと名乗った巨大な蜘蛛の化け物は、腰が抜けた元春を見て、糸も使わず直接口吻を突き刺す体制に入る。

『じゃあいただきま...ん?』

しかし、その化け物は途中で動きを止め、興味を失ったような素振りを見せる。

『あんた、魔粒素を全然感じないじゃない、喰っても得がないじゃないか...とっとと帰りな』

そう吐き捨てると、化け物は森の奥へと姿を消した。

化け物が姿を消して10分程経過し、悠吾の停止していた脳みそが急速に動き出す。

(なんなんだよあいつ!?絶対日本じゃない!てか海外でもあんなでかい蜘蛛いないよな!?本当になんなんだよここ!?)

悠吾は何も分からないまま、震える足で何とか立ち上がり、歩き始めた。しかし、ここを一直線に突き進めばまた襲われる可能性を考え、東方向に進むことにした。

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