第55話

「香山先輩、やっぱり可愛いなぁ、吉野先輩のこととなると、そういう表情見せるんだから、はいはい、邪魔ものは退散しますよ」


そう云って、糸井君は他の先輩の元へと去っていきました。



「あー、なんか、ダメだな俺、やっぱ余裕ないかも」



「余裕?」


「いや、こっちの話。じゃあ、もう予約入れてあるから、23日と24日は明けとくようにな」


そう云って、彼は私の頭をポンっとしました。


う…


なんか、嬉しい…


こういう時、一体どうやって、この嬉しさを表現すればいいんでしょうね?


こういう時、一体どうやって、キモチを伝えたらいいんでしょう?


その答えが、物凄く簡単なことを知るのは、クリスマスイブまで待たなければならないのですが。


この時の私は、やっぱり彼のキモチに気付いて無くて、彼がどれだけ私を好きなのかとか、そんなことも考えず、ただただ、のほほんと幸せに浸っているだけだったのです。


中学生でも、気づいていそうなことなのに…。


でも、今まで一方的に好かれて、付き合ってきた私は、まだ、愛なんていう尊いものに気づけるはずも無かったのかもしれません。


いつでも、誰にでも同じようにしか接することしかできなくて、彼氏だからとか、そんなポジションの相手にですら、特別扱いできずにいたんですからね。


恋愛初心者に、ほぼ近いですよね。


ええ、すべてにおいて、恋愛初心者に近いですとも。


だから、家に先輩が来た時、狼になられたら、どうしようかとか、心配したりとかしてましたよ。


先輩のキモチも知らずに…


今思えばの話なんですけどね。


さて、そんなわけで、私と先輩は、段取りのいい、先輩のおかげで、クリスマスシーズンの、込み合う時期に、富良野の温泉付きのホテルに一泊することになりました。


冬道は危険なので、電車でのんびり揺られていくことにしました。


だから、お弁当なんかは、私が作って。


朝早かったせいか、先輩は眠たかったのか、私の肩にもたれかかって、眠っていたりして、その寝顔を見ながら、また私は

一人幸せに浸ったりするのでした。



電車は、3時間半くらいで、富良野について、そこからは、無料送迎バスが来てくれていたので、バスに乗って、ホテルへと向かいました。


周りは一面雪の世界。


ホテルのあらゆる場所にクリスマスツリーや飾りが飾られていました。

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