第54話

「菜月」


映画研究会の部屋で、ぼーっとプレゼントのことを考えていたら、彼に呼ばれて、

ハッとして顔をあげました。


「あ、ごめん、私、なんかぼーっとしちゃって…」


「何か考え事?」


「うん、もうすぐクリスマスだなぁって」


「クリスマスの予定、何か入ってるのか?」


「いや、全然!全く!一樹こそ、バイトは?」


「バイトは、入れて無いよ」


「え?そうなの?」


「うん」


「じゃあ、うちで、手料理でも作ろうか?」


「その件なんだけど」


「え?なんかまずいとか?」


「まずいっていうか…もう俺の方で、プラン組んでるんだよね」


「そうなの?えー何々?」


私は、思わず目を輝かせて、彼の方をじっと見つめました。


「一緒に、富良野まで雪見に行かないか?」


「うわぁ、いいなぁ、クリスマスに深く積もった雪景色に囲まれるなんて、最高だね!」


私は、無邪気にそう喜びを表しました。


そんな私の目をじーっと何故か覗きこむ彼。


「ん?何?」


「いや、なんかあまりに無防備に喜ばれると、こっちが」


そう云って、彼は、目を逸らしました。


彼の方から目をそらすなんて、珍しいなって思うくらい、この時の私は鈍感でした。



雨の日に、私の家に泊まって以来、私たちは、お泊まりとかそういうのは、一切無いです。


・・・

・・・・・

・・・・・・・


はい、あれ以上の進展が無かったことを、私はすっかり忘れていました。


それと、彼の本心にも、全く気づいていなかったのです。



「いいなぁ、香山先輩と、吉野先輩は、二人で、クリスマスかぁ」


「あ、糸井君」


「糸井君こそ、もてるんだから、彼女の一人や、二人くらい・・・」


「もてるのと、好きな子が一致するとは限らないですよ」


糸井君、なんだか、真剣な目で私を見てます。


えっと、なんだろう…


この視線の意味って…。


と、私が、ぼーっとしていると彼が、私の肩をすっと自分のほうに寄せました。


「糸井も諦めが悪いな、菜月は俺のものだから」




きゃー!!!


何、何ですか?今の台詞は!!!


俺のモノ


って言いましたよね?


言ってくれましたよね?



あーダメだ…頭が真っ白になりそうなくらい、嬉しすぎる。


私の顔は、当然ながら、真っ赤になっていました。

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