第51話

「君と菜月の一緒にいる姿を見たら、きっと反対なんて誰もしないさ、お似合いだよ」


「お父さん、ありがとう」


「映画監督か・・・実は、私も若いころ、一度は憧れた職業だよ、私には、君のような自信がなくて、しがないサラリーマンを選ぶしかなかったんだが・・・羨ましいな」


「そうなんですか?」


「ああ、私も、学生時代は、しょっちゅう映画館に通ったものさ、今のように、DVDなんかが普及していなかったからね」


そんな感じで、初対面の二人なのに、父と、彼は、話がすごく弾んでいました。

まさか、父が、若いころ、映画監督に憧れていたとは、初耳でした。


久々の実家なので、両親に泊まっていきなさい、と言われたんですけど、彼は、さすがに初対面で、彼女の家に泊まるなんて、できませんというような感じで遠慮して、私たちは、帰途につくのでした。



電車の中で、彼は、ふぅーっと大きな息をつきました。


「お疲れ様、なんだか、あんな律義な一樹を見たのは、初めてだったから新鮮だった」


「結婚の話をしに行ったんだから、当然だよ、でも、予想外だった」


「何が?」


「絶対、そんな夢ばっかり追いかけているようなやつに、うちの娘は渡さん!とか言われるだろうなって覚悟してたから」


「私の、お父さんは、そんな堅物じゃないよ」


「うちの親父は、まさに典型的な、そういう堅物な父親だからな」


「うわー・・・私もいつか、ご挨拶に行くんでしょ?緊張するなぁ」


「菜月は、俺の兄貴に会ってるからいいんじゃない?それに、俺の父親には、俺がでかいことをやってから、会いに行くって決めてるから、2年近く会ってないんだ」


「でかいことって、大賞のこと?」


「そう、絶対、大学在学中に獲ってみせる」


そう云った時の彼の目は、なんだか、すごく強い、意志を感じさせるようでした。

それを見て、私は、ずっと、この人に付いて行きたいと、強く思うのでした。


電車が駅について、それぞれの家へと帰り道が分かれる時が、やってきました。


「ずっと、一緒に生きてくって約束したけど、まだ、既成事実は無いんだよな」


「なんだか、今日は・・・」


「今日は?」


「まだ、一緒にいたいな」


「菜月の家に行っていいの?俺の家だと、兄貴がいるからな」


「お兄さんが、いると何か問題でも?」


「うちの兄貴に、菜月が惚れたら嫌だから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る