第50話

「いきなり、凄いことを単刀直入に言うね、君は」


私の父は、メガネを人差し指で、あげながら、彼の様子を見ていました。


「付き合うなら、付き合うで、きちんと、ご報告したかったですし、僕なりの誠意が、結婚という二文字になりました」


「まぁ、とにかく座ってください」


そう云って、父は、彼に座るよう促しました。


「失礼します」


次に、父はあざとく、私の薬指の指輪に気付きました。


「菜月、その指輪は・・・もしかして・・・」


「うん、一応、エンゲージリング・・・一応って言ったら、失礼だよね、エンゲージリングだよ」


「まぁ、菜月ったら、そんなに素敵な物までいただいてるのね」


父の質問に答えていると、母が、お茶を持って私たちのところにやってきました。


「あの、これ、良かったら、飲んでください」


そう云って、彼は、ビールを差し出しました。


「あら、気を遣っていただいて・・・じゃ、遠慮なく・・・」


母は、にこやかにビールを受け取りました。


「吉野君、結婚の話を出すということは、君は、今、社会人なのかい?」


「いえ、菜月さんと同じ大学で2年です。」


「大学生で、結婚まで考えているのかい?君は、まだ、若いんだし、就職してから、また新しい出会いが、あるかもしれないのに、もう、結婚まで考えて、差し支えないのかい?」


「実は、そこで、菜月さんのご両親に、お話ししたいことがあるんですが、僕には、小さな頃から映画監督になりたいという夢があるんです。その夢を一緒に追いかけたいと思えるのが菜月さんでした」


「映画監督?」


「はい、まだ勉強中で、大学に入ってから一本も撮っていないんですけど、在学中に、必ず、大賞を獲るつもりです」


「君、すごい自信だね」


「よく言われます」


「菜月は、私が大事に育てた娘ですが、いつかは、嫁にやらなければならないと、この子が女の子として誕生した時から思っていました、遅かれ早かれ、その時が来たということですね」


「あら?お父さん、この間まで、菜月には、ずっと嫁に行って欲しくないって言ってなかった?」


「あんなの、たわ言さ、ただ、中高一貫の女子高に通わせていて、彼氏の一人すら、家に連れてきたことのない、菜月が、いきなり結婚相手を連れてくるとは意外だっただけの話だよ」


「反対しないんですか?」

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