第49話

いつもなら、私より、絶対後に来てるはずの彼が、待ち合わせ場所に、早くついてました。


「緊張してる?」


悪戯っぽく私が聞くと


「勿論」


と、言葉が返ってきました。

でも、言葉とは裏腹に、涼しげな顔で、そう云っているので真意は問えません。


私の家の近くのスーパーで、父の好きな銘柄のビールを買って、家まで、歩いて行きました。


「ただいまー」


私は、ブザーを押しながら、声を出しました。


「お帰り、今、玄関のカギを開けるわね」


久々の母の声。


夏に帰省して以来、市内なのに一度も帰ってなかったんですよね。


パタパタとスリッパの音が聞こえたかと思うと、母が玄関のドアを開けてくれました。


「さっきから、お父さんが、そわそわしながら待ってるわよ」


と、楽しそうに微笑みながら母は言った後、後ろにいた、彼に気付きました。


「あら?珍しいじゃない、彼氏?」


上目づかいで、彼に目をやりながら、私に聞いてきました。


「えっと、彼氏っていうか・・・」


まさか、ここで、まだ大学生なのに、いきなり結婚相手を連れてきたなんて言えるはずもないわけで、私が言葉に詰まっていると、彼が自ら自己紹介をし始めました。


「初めまして、吉野一樹です。菜月さんと、お付き合いさせていただいています」


「まぁ、初めまして。菜月の母です。こんな素敵な人が娘の彼氏だなんて、母親の私ですら、羨ましいわ。さぁ、どうぞ上がってください。」


そんなわけで、私たちは、私の実家に上がりました。


居間では、ソファに座った父が、新聞をじっと見ていましたが、私たちに気付くと、軽く頭を下げました。


「菜月、この人は・・・」


「あ、えっとこの人は、その私と付き合っていて、それで・・・」


私が言葉に詰まるとすかさず、彼が挨拶をしてくれました。


が、父への挨拶は衝撃的だったかもしれません。


「初めまして、菜月さんと付き合わせていただいてる、吉野一樹と申します。今日は、正式に、彼女とお付き合いをさせていただきたいと思い、ご挨拶に伺いました。」


「菜月の父です、吉野さんと言いましたか、菜月と正式に付き合わせて欲しいと仰いましたが、その・・・」


「はい、結婚させていただいてもいいか、今日は、菜月さんのお父さんに確認をしに伺いました。」


彼のその言葉を聞いた直後、父は、新聞を取り落としていました。

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