第48話

それだけで終わるかと思ったら、彼はもっと先のことをしっかり考えていて


「菜月の親父さんって、サラリーマンなんだろーな」


「うん、典型的なね」


「一人っ子の上、サラリーマンの娘か・・・ハードル高いなー」


「ん?」


「多分、相当反対されるのを覚悟しないとダメだろうな」


「どうかな、私のお父さんも映画好きだよ」


「映画好きでも、収入の安定してるサラリーマンからすれば、映画監督の夢だけ持ってる奴なんて、夢ばかり追いかけてる男にしか見えないかもしれない」


「一樹・・・なんだか珍しく、弱気な発言だね」


私は、苦笑しながら、彼に言いました。


「だけど、今年は撮る暇無かったけど、俺、大学在学中に、絶対、コンテストで、優勝して見せるから」


やっぱり、彼は、その辺の男子とは、オーラが違うんだなぁって、つくづく思いました。


見た目もスタイルも良くて、女子に、物凄く人気で、でも、愛想がなくて、無表情だけど、何か惹かれるものがあったんです。


ただ、映画監督になりたい・・・っていうだけなら、まだしも、コンテストに出て優勝するなんてことまで言ってのける彼。


彼なら、きっと優勝できそうな気がしました。

バイタリティーのある人間だと思ったから。


表向きは、学費のためとか、生活費のためとか言ってますけど、多分、本当は、いつも、撮りたいものを探しているんだろうなって、彼女になって彼のことを少しずつ知った今は、思います。


「明日って、親父さん家にいるの?」


「明日、うちに来るの?」


「行く、で、菜月を完全に親父さんから、奪わせてもらう」


そう云いながら、私の顔を見て、ニコリと笑いました。



中高一貫の女子高育ちの私。

しかも、今まで彼氏どころか、ボーイフレンドの一人すら連れて行ったことのない私を、父は、どう思うんでしょう。


私には、当然ながら、まだ子供はいないから、全く想像がつきません。


お母さんは、面食いだから、きっと、良かったじゃないって能天気に言いそうな気がする。


お父さんは、そう云えば、小さいころから、お母さんより良く、私を可愛がってくれてた記憶があるな。


まさか、大学に行って、彼氏どころか、結婚相手まで見つけてしまった私を、どう思うのか・・・


私は、そのシチュエーションを想像するだけで、ちょっとドキドキするのでした。

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