第45話

気がつくと、私は、いつの間にか眠ってしまったようでした。


あれだけうるさかった、雨の音がおさまって、窓から日差しが差し込んでいます。


隣には、寝息をたてる・・・一樹・・・って、名前を心の中すら、呼び捨てするのって、緊張します・・・


と、とにかく!


彼が、一樹が、隣で、すやすやと眠っていました。


こんな間近で、顔見れることなんて、滅多にないよね・・・


そう思った私は、彼の顔をまじまじと見ていました。


入学当初は、あんなに遠かった、この顔をどれほど、近くで見たかったことか。


まつ毛長いなぁ・・・


やっぱり、顔立ちが整ってる。


そっと、彼の髪の毛に触れた時、いきなり手首を掴まれました。


「え?」


「『え?』じゃない、昨日言ってた、ご褒美は?」


目を閉じたままで。


「あの、ご褒美は、昨日のうちに・・・」


「ダメ。菜月からキスしてくれないと、ご褒美にならない」


そう云って、ずっと私の手首を掴んだままです。一向に、目を開ける様子が見えません。


昨日は、はずみで、あんなこと言ってしまったけれど、いざ、その状況に持ち込まれたら、私から、キスなんて、とてもできません!!


だって・・・


私が、初めて、本気で自分から好きになった人だから・・・


この想い大事にしたいんです・・・


が・・・


「キスしてくれるまで、オレ、ずっとこのままだから」


「バ、バイト遅れちゃいますよ!」


「遅れたら、菜月の責任」


そう云ったまま、相変わらず手首を掴まれている私でした。振り払うなんてことも、もちろん、出来ず・・・。


意を決して、私は、先輩のおでこにキス・・・したんですけど・・・


「キスだけ?」


「え?」


「おはようのキスだろ?」


「あ、おはようございます」


「相変わらず、敬語は直らないのな」


「す、すみません・・・」


「もう一回、やり直し、敬語は、ダメだからな」


「はい・・・」


「・・・おはよ」


そう云って、私は再度、彼のおでこにキスしました。


「・・・・なぁ?そのあと名前もつけて?」


「え・・・あの3回目のやり直しするんですか?」


彼は、黙って頷きました。


もう、2回、こんなことさせられただけでも、十分恥ずかしいのに・・・


再度、意を決して、私は、おでこにキスしてから、


「おはよ、一樹」


と言いました。


「ん、おはよ」

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