第41話

それから

雷もようやく、おさまり始めました


「じゃあ、オレ帰るかな」


「・・・え?」


「このまま、ここにいて、本当に狼になっても大丈夫なのか?」


そう云って先輩は、面白そうに私を見ます。


「えっと、それは・・・」


「それは?」


「先輩、意地悪すぎる・・・」


私は、返事に窮してしまいました。


帰って欲しくないけど、でも狼になられて、大丈夫か?


と言えば、そういう覚悟は出来ていませんでした。



分かってます。


普通なら、もう、そんな躊躇するほどの歳月が経っていないはずだということも。



でも!!


でも・・・


「嘘。ちょっと困らせてみたかっただけ」


「あ・・・あの・・・」


私の中では、まだ迷いがありました。


このまま泊まっていってもらうべきなのか


否か・・・・



「オレの服、さすがにもう乾いたよな?」


そう云って、先輩は、自分の服を手に持って

バスルームを借りると言って、バスルームに

入っていきました。



先輩が、自分で帰るって言ったからいいんだ


と自分に言い聞かせてみるも

相変わらず、雨の音は激しくて

屋根を強く叩いていました。


着替え終わった先輩が出てきました。


「ちょっと湿ってるけど、どうせまだ雨降ってるし、オレ、じゃあ帰るわ」


とだけ言うと、先輩は、玄関に向かって歩き出しました。


「せ、先輩、本当に、帰っちゃうんですか?」



「ああ、菜月を困らせるのも可哀そうだしな」


「それを云うなら、先輩だって、この雨の中帰るんですか?私のほうが、意地悪になっちゃいませんか?」


「いいって、気にしなくて」


気がつくと、私は先輩のシャツの裾を掴んでいました。


「ダメです、帰らせません」


「お前、何言ってんだ?」


「え?・・・・・」



きゃーーーー


私ったら、なんてことを先輩に言ってるんでしょう!!!


帰らせない 


なんて普通、男子の言う言葉じゃないですか!!!



「帰したくない?」


先輩が、私の耳元で、そっと囁きます。

このタイミングで、それは、ずる過ぎる・・・。


「帰らないでください・・・」


終わりの方の私の声は小さくなっていました。


そんな私を包み込むように、振り向きざまに先輩は抱きしめてくれました。


「オレ、本当に帰らないから」


と呟きながら。

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